人形振り(読み)ニンギョウブリ

デジタル大辞泉 「人形振り」の意味・読み・例文・類語

にんぎょう‐ぶり〔ニンギヤウ‐〕【人形振り】

歌舞伎演出で、義太夫狂言一部役者人形芝居人形の動きをまねて演技するもの。「神霊矢口渡」のお舟、「日高川入相花王ひだかがわいりあいざくら」の清姫などに用いる。

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改訂新版 世界大百科事典 「人形振り」の意味・わかりやすい解説

人形振り (にんぎょうぶり)

歌舞伎の特殊な演出法の一つ。義太夫狂言で俳優が人形浄瑠璃の人形を模し,その動きに似せて演じる技法をいう。ことさら誇張して人形をまねた身振りにより舞踊的な効果を上げる。古くは元禄歌舞伎で,俳優が浄瑠璃に合わせて演技する〈仕方(しかた)浄瑠璃〉が流行したころ,人形の動きを模倣する演出がしばしば行われたという記録がある。現在見られる形式は,文政期(1818-30)の大坂で始まったという。多くは娘役の激情を表す情景に用いるが,道化がかった敵役が演じて,長時間の芝居に見た目の変化をつける例もある。《日高川入相花王(ひだかがわいりあいざくら)》の清姫と船頭,《染模様妹背門松(そめもよういもせのかどまつ)》(蔵前)のお染と善六,《伊達娘恋緋鹿子(だてむすめこいのひがのこ)》(櫓(やぐら))のお七,《壇浦兜軍記(だんのうらかぶとぐんき)》(阿古屋(あこや))の岩永などは人形振りで演じるのが通例。俳優によっては《祇園祭礼信仰記》(金閣寺)の雪姫,《本朝廿四孝》(狐火)の八重垣姫などもこの手法で演じる。主役の俳優のほか,ふつう門弟黒衣(くろご)を着て人形遣いに扮するが,役によっては〈出遣い〉の形式を模し,幹部級の俳優が裃(かみしも)をつけた扮装で〈主(おも)遣い〉の役をつとめることがある。
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世界大百科事典(旧版)内の人形振りの言及

【井上流】より

…近衛家で身につけた御殿舞などの宮廷文化を基盤に典雅な舞を作り上げた。2世,3世と,金剛流,観世流の能の影響を受けたが,歌舞伎や人形浄瑠璃の長所も取り入れ,〈人形振り〉の型を井上流のものにした。3世の時代に祇園町の舞の師匠となり,1872年(明治5)〈都をどり〉を起こした。…

※「人形振り」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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