中国,春秋時代末の人。生没年不明。本名は呉員(ごうん)。楚国のお家騒動で父と兄とを楚の平王に殺されると,楚より出奔し,諸国をさまよったあと,呉に身を寄せた。呉王の闔閭(こうりよ)が父王を殺して即位するのに力をかして信任を受け,兵法家の孫武とともに呉の国力の充実につとめた。国力をのばした呉は,楚に侵攻し,楚都の郢(えい)を陥(おと)した。伍子胥は,すでに死んで葬られていた平王の墓をあばき,その尸(しかばね)を鞭(むち)打って父と兄の仇をうったとされる。そののち闔閭は中原に進出することに心を用いしばしば北方へ軍を動かしたが,伍子胥は背後の越をこそ警戒すべきだと主張して闔閭と意見が合わず,剣を賜って自殺した。まもなく呉は伍子胥の言葉どおり越に滅ぼされた。その激烈で悲劇的な生涯から,伍子胥は神格化され,江南の各地に彼の廟が建てられた。《国語》呉語や《史記》巻六十六に彼の伝があるほか,《呉越春秋》《越絶書》ではすでに彼に関する小説的な記述が多くなっており,さらに敦煌の変文や元曲などの俗文学の中にも登場する,民衆に身近な英雄であった。
執筆者:小南 一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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