活版の組版で指定された活字がない場合、かりに活字の〓(げた)を組み込んでおく一時的な措置。これは印刷段階での技術的なことであるが、なんらかの理由で明記することを差し控えなければならない場合、字句にかえて、空白にしたり○×□などの符号を用いて意味を伏せることがある。第二次世界大戦前、出版物の検閲制度のもとで、発禁や削除、あるいは伏せ字処分が強制される時期があった。そのため編集者は、検閲にひっかかりそうな政治用語、たとえば「革命」「内乱」「帝国主義」などを伏せ字にして出版した。また、性的な描写についても厳しく監視されていたため、性行為を連想させるような記述を伏せ字にすることは戦前では日常的に行われていた。伏せ字処分の例では1ページのほぼ全部が伏せ字ということもあった。伏せ字はのちには禁止されるようになる。伏せ字でも暗に内容がわかるようなものすら許されなくなってくるのである。このような伏せ字は、表現者・読者の権利を侵すものであった。ただ、現在でも、刑法第175条の「猥褻(わいせつ)規定」に触れること、あるいは品位を損なうことを恐れて、編集者が○○××といった伏せ字をあえて使うことはよくある。
[清田義昭]
『野川浩著『伏字文学館』(1982・創林社)』
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