日本大百科全書(ニッポニカ) 「伝統志向型」の意味・わかりやすい解説
伝統志向型
でんとうしこうがた
tradition-directed type
アメリカの社会学者D・リースマンによる社会的性格の三類型の一つ。内部志向型および他人志向型に対比され、歴史的に両者に先だつものとされる。自分が所属している社会の伝統的な行動様式(慣習、儀礼、エチケットなど)に忠実に従うことを自分の行動の基準とする性格類型をいう。社会変化の速度が緩やかで、家族や血縁集団への依存度が高く、価値体系がかなり固定的であるような社会(たとえば西洋の中世封建社会)では、伝統志向型がもっとも普通の性格類型であり、また社会適応にとっても有利である。しかし、資本主義が発達し、伝統的な共同体社会が崩れて近代的な市民社会が発展してくると、伝統に服従して昔ながらの行動様式を遵守する伝統志向型はうまく社会に適応できなくなり、かわって、自分の内部の信念や良心に基づいて自主的に行動する内部志向型が優勢になってくる。
[井上 俊]
『D・リースマン著、加藤秀俊訳『孤独な群衆』(1964・みすず書房)』