アメリカの社会学者。フィラデルフィア生まれ。ハーバード大学卒業後、会社員、教師、地方検事補、弁護士の職を経てシカゴ大学社会科学部教授(1949~1958)、ハーバード大学教授(1958~1981)に就任した。その後同大学ヘンリー・フォード2世社会科学講座名誉教授。アメリカ社会学会理事(1956~1957)、アメリカ研究協会理事(1953~1960)を歴任。アメリカン・アカデミー賞受賞(1954)。彼の名を一躍有名にしたのは、代表作『孤独な群衆』(1950)であり、そのなかで「伝統指向型」「内部指向型」「他人指向型」という三つの人間類型を設定し、第二次世界大戦後の受動化したアメリカ中間層の社会的性格を「他人指向型」と類型化した。また人間類型の設定を深化させるため、『群衆の顔』(1952)で実証的に調査研究をも行った。さらに、アメリカの資本主義に関するT・B・ベブレンの制度的研究を批判し、新しい個人主義を主張した(『ソースタイン・ベブレン』1953)。彼の個人主義論、パーソナリティ論、現代社会論、教育論、余暇論、大衆文化論に関する洞察は、独創性に満ちている。ほかに『個人主義の再検討』(1954)、『何のための豊かさ』(1964)、『ハーバードの教育と政治』(1975、S・M・リプセットとの共著)、『高等教育論』(1980)、『二十世紀と私』(1982)などの著書がある。2002年5月10日ニューヨーク州ビンガムトンで死去した。
[高島昌二]
『リースマン著、新堀通也他訳『大学教育論――教育社会学への試み』(1961・みすず書房)』▽『加藤秀俊訳『孤独な群衆』(1964・みすず書房)』▽『加藤秀俊訳『何のための豊かさ』(1968・みすず書房)』▽『國弘正雄・久能昭訳『群衆の顔――個人における性格と政治の研究』(1968・サイマル出版会)』▽『デイヴィッド・リースマン著、松本重治編、斎藤真他訳『現代文明論』(1969・みすず書房)』▽『D・リースマン、I・リースマン著、加藤秀俊・鶴見良行訳『日本日記』(1969・みすず書房)』▽『牧野宏他訳『個人主義の再検討』上下(1970~1974・ぺりかん社)』▽『D・リースマン、J・ガスフィールド、Z・ガムソン著、荒木泰子訳『大学の実験――学問とマス教育』(1973・みすず書房)』▽『喜多村和之他訳『高等教育論――学生消費者主義時代の大学』(1986・玉川大学出版部)』▽『永井陽之助訳『二十世紀と私』(中公新書)』▽『David RiesmanThorstein Veblen : A Critical Interpretation(1953, Charles Scribner, New York)』
現代アメリカの代表的社会学者,社会批評家。ハーバード大学で生化学,法学を修めたのち弁護士となる。1949年シカゴ大学教授,58年ハーバード大学教授。比較文化論あるいは文化人類学的方法,E.フロムら新フロイト派の精神分析学,歴史的方法,さらに社会学的調査研究などの成果を駆使しながら,〈豊かな社会〉とそこに生きる人間像を鋭く描きあげた。豊かな時代の豪華さと悲惨,成熟した産業社会ゆえに生じた都市と工業主義への静かな反逆,〈他人指向型〉という現代社会に支配的な社会的性格がもつ同調過剰とやさしさの対照,豊かさと利便性の代償である想像力の枯渇と砂をかむようなむなしさ,そして資源と時間の浪費。〈豊かな労働者〉のレジャー活動と専門職の相対的価値剝奪,労働世界における〈偽りの人格化〉と遊びの世界における〈強制的な私生活化〉。そして開発途上国の貧困と搾取,〈発展しすぎた国〉の欲求不満と疎外。リースマンの現実描写の筆致は,このように幾重にも重なった両義性で満ちあふれている。しかしなお,〈満ち足りた時代の恐怖〉に立ち向かって,一つの希望のシナリオを書きとめる。時代を追って,したがって〈伝統指向型〉〈内部指向型〉,そして〈他人指向型〉という社会的性格の変遷を貫いて,ひとり自我意識のみは確実に高揚しつづけてきた点に注目している。この鮮明な自我意識こそが,現代における自律的な人間の証明であるに違いない。自律的でしかも柔らかな個人主義の誕生にリースマンは希望を託している。主著に《孤独な群集》(1950),《個人主義の再検討》(1954),《何のための豊かさ》(1964)などがある。
執筆者:稲上 毅
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…(1)パーソナリティと社会的性格の研究 〈文化とパーソナリティ〉という視野の下での国民的性格,基本的パーソナリティなどの研究,またE.フロム,T.W.アドルノらによって推進された権威主義的性格の研究などがあげられる。〈他人志向型〉性格の提唱で知られるD.リースマンの大衆社会のパーソナリティの考察や,アイデンティティの危機を発達過程や社会的・歴史的経験と関連づけて追究しているE.H.エリクソンの業績なども重要である。(2)個人の行動や集団内行動の研究 実験的方法とデータの数量的処理によってとくに多くの研究が蓄積されている分野であり,認知やモティベーション(動機づけ)の研究,態度論,集団規範などの研究がそれである。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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