日本大百科全書(ニッポニカ) 「他人志向型」の意味・わかりやすい解説
他人志向型
たにんしこうがた
other-directed type
アメリカの社会学者D・リースマンによる社会的性格の三類型の一つ。外部志向型ともいう。伝統志向型および内部志向型に対比される。社会の伝統や慣習に従うことを行動の基準とする伝統志向型、自己の内的な確信や良心に従って行動する内部志向型に対して、周囲の他人やマス・メディアに登場する同時代人を行動の基準または指針とするのが他人志向型である。このタイプは、自分の信念を貫くことよりも、他人とうまくやっていくこと、他人から受け入れられ認められることを求めるので、他人(同時代人)の意向に絶えず気を配り、それを的確にキャッチし、それに自分をあわせていこうとする。この意味で、他人志向型の人間の心理機構はレーダーに例えられる。
リースマンは、西洋社会の歴史的変動につれて、人々の性格類型が、前近代社会における伝統志向型から近代市民社会における内部志向型へと移行し、さらに現代の大衆社会における他人志向型へと推移していくと考えた。他人志向型は、20世紀アメリカの大都市の上層中産階級にもっとも早く現れ、その後、大衆社会状況の進展につれて広く一般化した。つまり、このタイプは、資本主義の高度化によって生産や仕事そのものよりもむしろ消費や人間関係に重点が移ってくるような社会において支配的となる性格類型であり、またそのような社会にもっともよく適合した性格類型といえる。
[井上 俊]
『D・リースマン著、加藤秀俊訳『孤独な群衆』(1964・みすず書房)』