内科学 第10版 「作用・作用機序」の解説
作用・作用機序(副甲状腺・カルシトニン・ビタミンD)
a.PTHの作用
PTHは骨吸収を促進し骨からのCaの動員を高める.PTH受容体は骨形成に携わる骨芽細胞に存在し,骨芽細胞への作用を介して破骨細胞の形成や機能を促進する.Caは骨中にヒドロキシアパタイト結晶[Ca10(PO4)6(OH)2]の形で蓄積されており,骨吸収によりCa2+のみならずリン酸や水酸イオン(OH−)も溶出される.しかし,PTHは同時に腎近位尿細管でリンとHCO3−の再吸収を抑制しリンやOH−の排泄を促進するとともに,遠位尿細管でのCa2+の再吸収を促進する.その結果血中Ca2+のみが上昇し,血中リンやOH−は低下する.さらに,PTHは腎近位尿細管に存在する1α-ヒドロキシラーゼを誘導することにより1,25-(OH)2-Dの産生を促進する(図12-5-3).この作用により,骨からのCaの動員と腎での再吸収の促進による急速な血中Ca2+濃度の上昇に加え,1,25-(OH)2-Dの上昇を介してその後の腸管からのCa吸収も促進されCa代謝平衡が維持されることになる.
b.PTHの作用機序
PTHの1型受容体(PTH1R)との結合後,Gs蛋白を介してアデニル酸シクラーゼが活性化されサイクリックAMP産生が高まると同時に,Gq蛋白を介してPLCが活性化されジアシルグリセロール(DG)とイノシトール3リン酸(IP3)が生成される.このうちDGによりPKCが活性化されるとともに,IP3により小胞体からのCa2+の放出が促進され細胞内Ca2+濃度が上昇する(図12-5-4).PTH1型受容体はPTHと結合するとともに,後に述べる癌の高カルシウム血症惹起因子として同定されたPTH関連蛋白 (PTHrP)ともほぼ同等の親和性で結合し,単一の受容体がこれら2つの情報伝達系を活性化する.PTH2型受容体とよばれる異なる受容体もクローニングされているが,PTHの古典的な標的臓器とは異なる脳や膵臓などでのみ発現しており,その役割などは不明である.
先天的なPTH不応症である偽性副甲状腺機能低下症(PHP)のうちAlbright骨異栄養症(AHO)を伴うIa型は,Gs蛋白α サブユニット遺伝子(GNAS1)コード領域のヘテロ変異が原因である.GNAS1遺伝子は腎近位尿細管を含む一部の組織特異的に父性インプリンティングを受けるため,PHP-Iaの家系では母親からGsα遺伝子コード領域の変異を受け継いだ場合,刷り込み組織か否かにかかわらずGsα活性は低下するのでPHP-Iaを発症する.一方,Ia型患者の家系で父親から変異遺伝子を受け継いだ場合,腎近位尿細管などでは父性インプリンティングを受けるためGsα活性は正常となり,PHPは認めずAHOのみを呈する偽性偽性副甲状腺機能低下症(PPHP)となる.
PTHに対する不応性のみを呈しAHOを示さないPHP-Ib型は,GNAS1遺伝子プロモーター領域のDNAメチル化異常により,腎尿細管などのインプリンティングを受ける組織でGsα発現が低下しているが受けない組織ではGsα発現量は正常であるためAHOを呈さないものと考えられる(表12-5-2).
(2)ビタミンD
a.1,25-(OH)2-Dの作用
1,25-(OH)2-Dは腸管のCa,リンの吸収を促進するうえで最も重要なホルモンである.1,25-(OH)2-Dは骨にも作用し,骨芽細胞でのオステオカルシンやオステオポンチンなどの基質蛋白の遺伝子発現を高めるとともに骨芽細胞の分化に影響を及ぼす.骨芽細胞は,破骨細胞の形成・機能の調節をも営んでいる.この機能は骨芽細胞膜上のRANKリガンド(RANKL)とよばれる膜蛋白と破骨細胞膜上のその受容体RANKとの結合を介する.高濃度の1,25-(OH)2-DはRANKLの発現を促進し破骨細胞の形成を促進するが,生理的濃度の1,25-(OH)2-DはむしろRANKL発現の抑制を介して骨吸収を抑制し,腸管から吸収されたCaやリンの骨への効率よい蓄積に寄与している.さらに,1,25-(OH)2-Dは腎遠位尿細管でのCa結合蛋白(カルビンジンD)の合成促進作用などを通じてPTHのCa再吸収促進作用を維持するほか,副甲状腺細胞に働きPTH遺伝子の転写を抑制することなどにより,PTHの産生や作用にも影響を及ぼす(図12-5-5).
これらのCa代謝調節作用に加え,1,25-(OH)2-Dは広範な細胞の分化誘導作用を示し,腫瘍細胞の一部に対しても分化誘導・増殖抑制作用を発現する.最近,組織特異的な作用を発現する活性型ビタミンD誘導体の開発が進み,腎不全患者での続発性副甲状腺機能亢進症治療薬,乾癬治療薬や,骨折防止効果が証明された骨粗鬆症治療薬としても使用されている.
b.1,25-(OH)2-Dの作用機序
1,25-(OH)2-Dの作用は核内受容体ファミリーに属するビタミンD受容体(VDR)との結合を介して発現する.VDRは甲状腺ホルモン受容体,レチノイン酸受容体との相同性が高く,いずれもレチノイドX受容体(RXR)との間でヘテロ二量体を形成する.1,25-(OH)2-D-VDR-RXR複合体は,標的遺伝子上のビタミンD反応領域(vitamin D responsive element:VDRE)と結合しその転写活性を調節することにより作用を発現する(図12-5-6).ビタミンDに対して不応性を示すビタミンD依存症Ⅱ型では,多様なVDR遺伝子の変異が同定されている.そしてVDR遺伝子欠損マウスでは,全身脱毛のほか,離乳後になると低カルシウム,低リン血症やくる病など,ビタミンD依存症Ⅱ型とほとんど同じ病態が認められる.
(3)カルシトニン
カルシトニンは,破骨細胞に存在する受容体との結合を介する骨吸収抑制作用などにより,血中Ca濃度の低下作用を示す.水中動物では,体外のCa2+濃度が体液中より高く,血中Ca2+の調節はカルシトニンなどにより営まれるものと考えられる.陸上動物でのカルシトニンの生理的役割は大きくないと思われるが,食後一過性に血中濃度が上昇することから,腸から吸収されたCaの骨への移行に寄与すると考えられている.また,胎児のCa代謝の調節にも関与している可能性がある.[松本俊夫]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報