改訂新版 世界大百科事典 「俗流唯物論」の意味・わかりやすい解説
俗流唯物論 (ぞくりゅうゆいぶつろん)
vulgärer Materialismus[ドイツ]
vulgarisierter Materialismus[ドイツ]
19世紀の後半にドイツ文化圏で流行したある種の唯物論に対する蔑称。フォークトKarl Vogt(1817-95),J.モーレスコット,L.ビュヒナーなどの立場を指す。この立場は一種の科学主義的唯物論であり,広義には機械論的唯物論に属するが,18世紀のフランス唯物論がもっぱら物理学的な知見に立脚したのに対して,生理学的な知見に定位し,さらにはダーウィン流の進化論と結合したところに特質がある。このため,生理学的唯物論と呼ばれることもある。なお,この立場を特徴づける標語として〈膀胱が尿を分泌するごとく,脳髄が思想を分泌する〉という言葉が流布されているが,これはフォークトの命題を歪曲したものであって,彼ら自身は〈分泌する〉とまでは言っていない。
執筆者:廣松 渉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報