日本大百科全書(ニッポニカ) 「冷凍手術」の意味・わかりやすい解説
冷凍手術
れいとうしゅじゅつ
cryosurgery
0℃以下の低温を用いた非観血的手術療法で、凍結手術、凍結療法などともよばれる。生体組織の一部を0℃以下の低温に冷却すると、付着、固形化、炎症、壊死(えし)などの現象を生ずるが、これを治療に応用したものである。すなわち、白内障に対する水晶体摘出に応用されているのは、冷却した金属性の凍結端子に組織が付着する凍結付着現象を利用したものである。また、脳腫瘍(しゅよう)の摘出や悪性黒色腫の病巣を凍結させてから切除するのに凍結固形化現象が、網膜剥離(はくり)の手術や未熟児網膜症には凍結炎症現象が、いろいろな腫瘍の破壊などには凍結壊死現象が、それぞれ利用されている。
冷却剤としては液体窒素、亜酸化窒素(笑気)、液化炭酸ガス、フレオンなどが用いられ、手術装置としては多くの機種がある。冷却剤の誘導部と凍結を行う先端までを含めて凍結子といい、とくに先端部は凍結端子とよばれ、これに装着するアダプターを交換凍結端子とよんでいる。
なお、凍結壊死に陥った組織の境界は鮮明であり、その脱落したあとはメスで切除したようにみえるところから、俗に冷凍メスとよばれる。しかし、電気メスやレーザービームなどによる瞬間的な組織破壊に比べると、凍結壊死の発現は遅く、肉眼的には1日から数日、脱落するまでは10日から2週間かかるので、冷凍手術という用語が使われている。
[工藤達之]