表皮、真皮、粘膜、眼の脈絡膜、母斑(ぼはん)細胞母斑などに分布するメラノサイト(色素細胞)が悪性変化した腫瘍(しゅよう)である。きわめて高い転移能をもち、早期に転移を起こすため、予後がきわめて悪い。黒色腫細胞は、まれにしか色素産生能を失わないため、ほとんどが黒色を呈する。単に黒色腫(英語ではメラノーマ、ドイツ語ではメラノーム)ともよばれ、古くは黒色肉腫、黒色癌(がん)などともよばれていた。
1980年代以降、メラノーマは世界的に増加傾向が目だち、現在アメリカでは増加率がもっとも高い悪性腫瘍となっている。メラノーマ増加の原因として第一に考えられるものとして、戸外スポーツの隆盛や生活スタイルの変化、とくに衣服スタイルの変化があげられる。それにより皮膚が日光紫外線に曝露(ばくろ)される機会が増えてきたことが、メラノーマ患者増加の一因と考えられる。またオゾン層破壊に伴う紫外線照射量の増大なども推定されている。日本では人口の高齢化もメラノーマ患者増加の一因と考えられている。
メラノーマの発生頻度は人種差が著しく、白人に多く、黄色人種、黒色人種の順に少なくなる。人口10万人当りの年間発生率は、白人で10~20人、日本人で約1人、黒人で0.5人である。
[池田重雄]
悪性黒色腫は4病型に分類され、わが国では、末端黒子型黒色腫45%、結節型黒色腫30%、表在拡大型黒色腫16%、悪性黒子型黒色腫9%の割合で発症する。これら病型による相対的頻度も人種差が著しく、白人では表在拡大型約70%、結節型10~30%、悪性黒子型約5%、末端黒子型約3%の割合である。
(1)結節型黒色腫 結節性病変として認められ、周辺に色素斑を伴わない。各人種の全身各部位に生ずる。
(2)表在拡大型黒色腫 周辺の健常皮膚よりわずかに隆起する黒褐色局面で、弧状に増大し、局面内に腫瘤(しゅりゅう)形成をみるようになる。白人にもっともみられる病型で、男性の背部と女性の下肢に好発し、比較的若年者にも生ずる。
(3)悪性黒子型黒色腫 高齢者の顔面に好発し、緩徐な拡大、のちに腫瘤形成をみる。
(4)末端黒子型黒色腫 日本人にもっとも多くみられる病型で、足底と指趾(しし)爪部に好発する。黒人では圧倒的多数が四肢末端部と皮膚粘膜移行部に生じ、末端黒子型と結節型が多い。
特殊型悪性黒色腫として次の3型がある。
(a)巨大母斑細胞母斑(巨大黒あざ)から発生する悪性黒色腫 5~30%ぐらいの頻度で発生をみる。組織学的には真皮内母斑からの発生が多い点で注意を要する。乳幼児期からみられることが多く、早期発見の時期を逸すると予後が悪い。
(b)悪性青色母斑 きわめてまれな腫瘍で、比較的大形の青色母斑(青あざ)から発生する。青色母斑細胞の悪性化によるもので、細胞増殖型青色母斑から生ずることが多いとされる。
(c)澄明細胞肉腫 皮下深部の軟部組織より発生するもので、軟部組織悪性黒色腫ともよばれる。手足が好発部位で、腱(けん)などに癒着した硬い結節としてみられる。
[池田重雄]
一般に白人の黒色腫は紫外線により誘発されるものと考えられている。悪性黒子型の発生には、慢性的な長期にわたる日光照射の蓄積が考えられる。表在拡大型では、間歇(かんけつ)的に繰り返す強い日光照射が関与しているらしい。日光中の中波長紫外線により表皮基底層部に存在するメラノサイトの核DNAが損傷され、癌遺伝子の活性化が起こるのではないかと想像されている。末端黒子型の発症には機械的な外的刺激の関与が疑われる。家族性多発性異型母斑黒色腫症候群は顕性遺伝を示し、染色体1p(第1染色体の短腕)の異常が示唆されている。
[池田重雄]
メラノーマ病巣表面にエコー・ゼリーを塗布し、10倍のデルマトスコープ(拡大鏡)で観察することにより表在拡大型、末端黒子型、悪性黒子型メラノーマの早期診断が容易となる。メラノーマの進展度を推定するパラメーター(指針)として、血中および尿中の5-S-CD(システイニールドーパcysteinyl dopa、メラニンへの主要な中間代謝産物)の測定は有用で、それらが高値であれば広範な転移が疑われる。
無色素性メラノーマあるいはメラニン欠乏性メラノーマでは、免疫組織化学によるS-100タンパク、HMB-45染色、電子顕微鏡的観察が必要となる。またホルマリンガス処理によってメラニン代謝中間産物が蛍光を発することを利用する蛍光法も有用である。
通常のBモード法による超音波検査に引き続いて、病変内の血流信号を7.5~10メガヘルツのリニア型プローブを用いて観察するドップラエコー法は、メラノーマにおいて豊富な血流信号が特徴的な分布パターンを呈することから、原発巣の診断や皮膚転移、リンパ節転移の検出に有用である。
歩哨(ほしょう)(センチネル)リンパ節の決定のためにパテントブルー(酸性染料)と99mTcコロイドなどのアイソトープ(放射線を出す物質)が用いられ、鼠径(そけい)部では90%の検出率があげられている。
[池田重雄]
手術療法が主体である。早期におけるやや広範な切除と予防的・根治的リンパ節廓清(かくせい)が原則である。腫瘍の厚さが3ミリメートル以上のものでは、以下のような術後補助免疫化学療法を併用する。
(1)DAV(ダブ)療法 ダカルバジンdacarbazine(略号DTIC)、ニムスチンnimustine(略号ACNU)、ビンクリスチンvincristine(略号VCR)に加えてインターフェロンβ(ベータ)を局注する。
(2)DAC-Tam(ダクタム)療法 DTIC、ACNU、シスプラチンcis-diamine-dichloroplatinum(略号CDDP)に抗エストロゲン剤のタモキシフェンTamoxifen内服を加える。
そのほか、温熱療法、局所灌流(かんりゅう)療法、放射線(速中性子線ないし熱中性子線を含む)療法、凍結療法などもある。進行期メラノーマに対しては、確実な成果を示すものはないが、現在分子生物学的手法を駆使した遺伝子治療や免疫遺伝子治療の開発が進められている。
[池田重雄]
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→黒色腫
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