高周波電流を用いて、組織に圧力を加えずにこれを鋭利に切離(切開)するとともに、細小血管や毛細管を閉鎖(凝固)することによって出血させない(少ない出血)で手術ができる機器をいい、電気手術器ともよばれる。高周波電流発生装置と、これを導出して生体に通電する金属部、および生体から電流を回収する対極板からなる。切開は高周波電流によって組織中の水分が爆発的に水蒸気化することを利用して行い、凝固は組織内に発生するジュール熱により組織成分のタンパク質を凝固させるわけで、これにより止血作用が生ずる。実際には両作用が混合し、止血しながら切開することができる。なお、凝固には放電現象(火花凝固)も加わっていることがわかってきた。
電気メスによる手術は、頭皮の切開や小出血点の凝固止血など脳神経外科領域、肺切除など胸部外科領域、消化管の切開や切断など消化器外科領域などでしばしば行われ、電気メスが広く使われている。
電気メスによる障害としては、熱傷をはじめ、電撃、誘導障害、電波障害、爆発などがあげられる。高周波電流は正常の経路以外を流れやすい性質があり、思わぬ部位(頭部、肩甲部、腰部など身体の凸部で手術台と密着する部位)に熱傷を生ずることがある。対極板を正しく使用するとともに、高周波分流がおこりにくい絶縁型出力回路をもった電気メスを使って防止することが望まれる。電撃に対しては電気メスのアースを確実にとること、また全般の障害防止に対して保安管理(チェックリストによる始業点検や3か月ごとの定期点検など)を厳重に行うことが望まれる。
なお、電気メスは通常の機械刃メスの欠点を補うために登場してきたわけであるが、同様に切開と止血を同時に行う目的をもったメスとしては、最近、レーザーメス、超音波メス、冷凍メスなどが登場してきた。
[岡島邦雄]
高周波電流によって外科的処置をするための機器。高周波電流発生装置と,これを導出して生体に通じさせる金属部および生体から電流を回収する対極板から成る。電気メスによって行える処置は,(1)電気乾燥electrodesiccation,(2)電気凝固electrocoagulation,(3)電気切開electrocuttingで,いずれも高周波が発生する熱によって生体のタンパク質が凝固変性する作用を利用している。電気乾燥だけは対極板を用いず,したがって生体に電流が流れない状態で体表の腫瘍などを炭化させる。電気凝固は熱によって組織がふくらむことを利用して止血を図るもので,手術時の止血のほか,実質臓器や腫瘍からの止まりにくい出血を止める場合にも用いる。電気切開は放電によって組織を切るもので,熱も加わるため,通常のメスに比して出血が少なくてすむ利点がある。電気乾燥は,1847年クーセルR.Cuselが皮膚の病気に初めて応用したといわれる。電気凝固を利用した電気メスは1924年ワイースG.Wyethが,電気切開を利用した電気メスは28年ボビーW.T.Bovieがそれぞれ開発した。現在では集積回路の使用により,小型化,高性能化が進んでいる。電気メス使用に際しては,対極板部の熱傷や,周辺からの爆発性物質の除去などに注意する必要がある。
執筆者:小野 美貴子
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