改訂新版 世界大百科事典 「出アフリカ説」の意味・わかりやすい解説
出アフリカ説 (しゅつアフリカせつ)
out of Africa model
新人,ホモ・サピエンスの起源に関する三つの仮説のうちの一つで(もう二つは多地域進化説と同化混血モデル),アフリカで20万年ほど前に誕生したホモ・サピエンスが,8万~5万年前に世界中に拡散して,各地の原人や旧人に取って代わったという最近の説。〈出アフリカモデル〉あるいは〈アフリカ起源説African origin model〉〈新人アフリカ起源説African origin model of modern humans〉ともいわれる。母系遺伝するミトコンドリアDNAの分析結果によって,アフリカで20万年ほど前に現代人すべての祖先である女性がいたことを想定する〈ミトコンドリア・イブ仮説〉があるが,それとも整合する。最近では,人骨化石の形態分析からも圧倒的に多くの研究者の支持を得ている。
たとえば,ホモ・サピエンスの化石は,イスラエルの一部で約10万年前の化石(カフゼー遺跡,スフール遺跡)が見つかっているのを除くと,ユーラシアではおよそ4万年前以降のものしか見つかっていないのに対し,アフリカでは約16万年前(ホモ・サピエンス・イダルツ),さらに19万年前(オモ・キビッシュ1,2)にまでさかのぼるホモ・サピエンスの化石が発見されている。また,ホモ・サピエンス特有の文化遺物も,ユーラシアよりもアフリカではるかに古い年代のものが見つかっている。
なお,人類進化における〈出アフリカ〉は,ホモ・サピエンス以前にも少なくとも1回あるいは2回はあったと考えられている。まず確実なのは,およそ180万年前の初期ホモ・エレクトス,そして,おそらく,およそ60万年前のホモ・ハイデルベルゲンシスである。その意味では,ホモ・サピエンスの出アフリカは,第2出アフリカあるいは第3出アフリカと呼ぶべきであろう。さらに,ロシアのデニソワ遺跡出土人骨のミトコンドリアDNA分析から,およそ100万年前のホモ・エレクトスによる出アフリカも想定されている。そうすると,第4出アフリカになるが,ここでは,ホモ・サピエンスの起源と拡散に関する仮説という意味で,単純に出アフリカ説としておく。
→化石人類 →新人 →多地域進化説 →デニソワ →同化混血モデル
執筆者:馬場 悠男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報