日本大百科全書(ニッポニカ) 「分裂国家」の意味・わかりやすい解説
分裂国家
ぶんれつこっか
divided nation
第二次世界大戦後現在に至るまで、「冷戦」を背景として民族が二つに引き裂かれた状態から生まれた国家。分断国家ともいうが、このことばは、一民族がその意志に反して外力により分断させられたという響きがある。普通、1990年までのドイツ、朝鮮、および76年までのベトナムの場合があげられる。これらの地域に存在するものが、一つの国家のなかに二つの政権があるのか、二つの国家があるのか、あるいは一つの国家とほかにもう一つの政権があるのかについて、政治的立場によって、あるいは学説上も、異なった見解がある。また分裂国家というときに、分裂した一方の側についていう場合と、双方についていう場合がある。
同系民族が二つあるいはそれ以上の国家に分かれている場合は、現代において珍しくはない。たとえば、アングロ・サクソン系の諸国家(発生的にはイギリスの定住植民地)やドイツ系の諸国家(オーストリア、ルクセンブルク)などがある。しかし、そのような諸国を分裂国家といわないのは、そこでは国家の分離が歴史的に正当化されているからである。
これに対して、ベトナム、ドイツ、朝鮮の場合は、第二次大戦の後始末の処理におけるアメリカとソ連との対立から、冷戦の激化によって、民族が二つに分離され、二つの政権が成立して、それぞれその正統性を主張したことが起源をなしている。ベトナムはベトナム戦争終結の結果、1976年、ベトナム民主共和国(北ベトナム)によって南北統一がなり、ドイツは1972年東西ドイツ間に国交正常化についての基本条約が結ばれ、東西両国家併存ののち、90年10月統一された。朝鮮は、南北両国家の平和的統一が切実な課題とされている。
[斉藤 孝]