改訂新版 世界大百科事典 「分断国家」の意味・わかりやすい解説
分断国家 (ぶんだんこっか)
大国の政治的意図によって国境を分断された国家のうち,とくに冷戦を原因として東西両陣営に分断された国家をいう。東西ドイツ,南北朝鮮,南北ベトナム,また中国本土と台湾などがその例である。このうち,南北ベトナムはベトナム戦争終結とともに1976年7月に,東西ドイツは東西冷戦終結とともに90年10月に,それぞれ統一された。台湾でも,国民党政権が武力による再統一(本土反攻)路線を事実上転換し,台湾出身の〈本省人〉によって構成される政府に変わったため,かつてのような分断国家としての性格は薄れている。
分断国家は,国内の諸要因よりは大国の対立が原因となって生まれるため,国際的緊張を誘発しやすい。東西ドイツの分断は2回のベルリン封鎖を,また朝鮮半島の分断は朝鮮戦争を招いた。そして,分断国家における紛争は,大国の干渉を招き,核戦争を頂点とする世界的規模の戦争に発展する可能性も高いだけに,冷戦期の国際関係の焦点となっていた。逆に,分断国家における紛争の解決は,大国間の緊張緩和と結びついている。朝鮮半島における72年南北共同声明やドイツにおける〈東方政策Ostpolitik〉は地域の安定に大きく寄与し,東西ドイツの再統一は冷戦終結の決定的な転換点となった。冷戦の終結とともに,国際政治による分断の固定化は終わった。しかし,いまなお朝鮮半島の分断が続き,また中国が台湾の自立を認めていないことに見られるように,アジア地域に限っては,分断国家が戦争の原因となる状況は終わってはいない。
執筆者:藤原 帰一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報