改訂新版 世界大百科事典 「分野説」の意味・わかりやすい解説
分野説 (ぶんやせつ)
fēn yě shuō
中国全土を天の十二次,あるいは二十八宿に配当し,配当された星の位置によってそれぞれの国の吉凶を占おうとする古代占星術の基礎理論。十二次は天を西から東へ12等分したもの,二十八宿は天のおもな星を目標にして,西から東へ分割(これは不等分)したものをいう。古代の歴史書である《国語》に,周の武王が殷を伐(う)ったとき,歳星(木星)が鶉火(じゆんか)(南)に位置していたことから,鶉火を周の分野としたとある。また,《春秋左氏伝》にも歳星の位置によって吉凶を占った例がみえる。ここでいう鶉火とは天の十二次の一つで,戦国時代は十二次によって地上の十二国を配当していた。漢代では十二次を二十八宿として十三の地域に配当したが,後漢になると再び十二次による分野説が採用され,以後それにならった。天の十二次・二十八宿と,戦国時代の十二国,漢代の十三地域との対応は図のようになる。ではなぜ惑星による分野説が生まれたのか。《史記》によれば,戦国時代に天文観測が重んぜられたのは,戦乱の絶えない不安な社会にしばしば飢饉がおこり,そこで地上の禍福吉凶を前もって予測しようとしたためであるとする。たしかに,農耕民族にとって自然の変化は何よりも関心あることであったろう。しかし,その起源には,王者たる者の先祖はおのおの特定の星の精に感じて生まれてきたとする,古代中国人の星に対する信仰が考えられる。しかもこの星の信仰は,死してのち天に昇った祖先の霊が,現世に生きる自分たちを守ってくれるとする祖先崇拝の思想ともつながるものである。なお,中国の分野説を西方伝来のものとする説もあるが,その点については今も定かでない。
→占星術
執筆者:串田 久治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報