切紙絵(読み)きりがみえ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「切紙絵」の意味・わかりやすい解説

切紙絵
きりがみえ

紙を鋏(はさみ)や小刀で切り抜いて形をつくり、台紙に貼(は)り込んだもの。切絵ともいう。紙を切る切紙の手法には紋切り、切り抜き、ちぎり、中国の剪紙(せんし)などがあり、紙工芸の一つ切紙細工として古くから生活文化と結び付き、世界各地で行われてきている。これを絵画的表現の一つとして用いるようになったのは近代以降のことである。

 ヨーロッパでは、黒い紙を切り抜いてつくったシルエットの肖像画が、18世紀後半から19世紀のドイツやイギリスで流行し、当時高価であった写真にかわるものとして人気を集めた。デンマークの童話作家アンデルセンも、自作の登場人物を切紙で残している。

 日本では、江戸後期の喜多村筠庭(きたむらいんてい)(喜多村節信(ときのぶ))の『嬉遊笑覧(きゆうしょうらん)』(1830序)に、寛文(かんぶん)年間(1661~1673)行われた、紙を畳んで種々の紋を切る「はさみ切り」や、現在まで寄席(よせ)芸として伝わる「紙切」の祖のような芸が記されている。明治初年、三井高福(たかよし)(1808―1885)は『剪綵(せんさい)大意』を著し、三井家伝来の剪綵(切抜き絵)の技法秘伝を伝えた。

 近代以降では、染織家芹沢銈介(せりざわけいすけ)が型染めの技法を和紙に応用して優れた作品を残し、詩人高村光太郎(こうたろう)の夫人智恵子(ちえこ)(1886―1938)が晩年の病気療養中に制作した紙絵は、みごとな芸術作品として知られる。また、天才的な放浪画家、山下清(1922―1971)にはユニークな「ちぎり絵」の作品がある。フランスの画家マチスは、晩年の1943~48年のバンス定住時代に切紙絵に専心、その作品は『ジャズ』のタイトルで出版(1947)されている。

 今日では「きりえ」の名で新しい絵画表現のジャンルとして一般に普及しているが、この名称は1969年(昭和44)『朝日新聞』に滝平(たきだいら)二郎(1921―2009)の作品が連載されるに際して命名されたものである。

[小川乃倫子]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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