紙を切りぬいて種々の形をつくる手芸。〈切りぬき細工〉ともいう。古くから世界各地で行われているが,抽象的・幾何学的模様をつくる切紙模様,人物や風物の形を切りぬく切紙絵,切紙を組み立てて家や家具の雛型をつくる切紙の模型などが行われている。
日本の伝統的な切紙模様に〈紋切〉がある。紋形の対称性を応用して,正方形の紙を一定の方式で折りたたんで紋章の部分を切りぬく手法で,紙をひろげると全体の紋章が得られる。紙の折り方には一つ折りから五つ折りまでが行われている。また種々の紋形を切りぬいた厚紙を型紙として,その上から色をすりこんで簡単に紋章を描く方法も行われ,〈紋切形〉と呼ぶこの型紙は江戸末期には市販されるにいたり,明治中期までは縁日の露店でもこれを売っていた。きまりきった様式を俗に紋切形と呼ぶのはこれに由来している。七夕祭の笹に飾りとしてつける〈菱つなぎ〉や〈網〉,クリスマス・ツリーをかざる〈きらきら星〉も,この紋切と似た手法でつくられる。中国(主として華北)でししゅうの下絵などにつかわれる剪紙も精巧な切紙模様であり,独特の民族的様式をもっている。小学校の工作教育で行われる切紙模様はもっと自由に模様を切りぬき,つないでいくものが多い。
切紙絵の代表的なものにシルエットの切紙があり,大道芸として即席に人物のシルエットを切りぬく芸人がみられるが,そのすぐれたものは影絵芝居やアニメーション映画にも応用され,日本では回り灯籠にも応用されている。シルエットsilhouetteという言葉は,18世紀のフランスの蔵相エティエンヌ・ド・シルエットの緊縮財政によって画家までも色彩をつかわず,黒白の影絵を描いたことに由来すると伝えられているが,日本では文政年間(1818-30),人の似顔を紙に切りぬいて見世物にする芸人があったことを《嬉遊笑覧》は伝えている。19世紀からヨーロッパで行われた着せ替え人形も,厚紙を切りぬいた裸の人形に切紙細工の衣装を着せる遊戯で,衣装や人形は市販されたが,手製のものによっても遊ばれた。遊戯的な切紙細工としては,そのほかヨーロッパで古くから行われるハンド・ドラゴンがあり,切紙の着物や人形を指先にはめてあやつり,見世物にもされた。
造花も切紙模型の一種で,《万葉集》の掾久米朝臣広縄(じようのくめあそんひろなわ)の和歌にもうたわれており,当時は綵(あやぎぬ)製であったといわれる。《枕草子》にも梅の造花に関する記録があり,江戸時代になると寒冷紗(かんれいしや)や薄紙でつくられるようになった。1856年(安政3)山中庵其竜と山桐庵其風が大坂の難波新地で,花,果実,玉川,飛鳥山,吉野山一目千本の桜などを切紙でつくり,人気を博したという。現在でも町や家の紙製模型が小学生のあいだで作られている。なお切紙細工に似た美術に張絵がある。
→張絵
執筆者:小高 吉三郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
切紙細工とは、主として手漉(す)きの和紙を使って、鋏(はさみ)、小刀、あいすき、丸錐(きり)などの刃物で、さまざまな図案(草花、鳥獣、人物、風景、建造物、社会生活、文字など)を切り抜いたり、彫り刻んだりした手作りの細工物のことである。切紙細工の特色は、「切絵(きりえ)」とは異なり、描いた絵をそのまま切り抜かない。絵をいったん切紙独特の図案(切り抜いたときにどの部分をつまみ上げても、全部がつながっている)に描き直して下絵をつくる必要がある。技術上からみると、陰刻といって、切り抜いた空間によってものの形を表す方法と、陽刻といって、反対に切り残す部分によってものの形を表す方法とがある。
切紙細工の魅力の一つは、切られた手漉紙の味わいにあるといえる。手漉きの和紙は、色、つや、温かみ、強さ、手触りなどに洋紙にはない独得の美しさがある。そのため切紙図案独自の造型美とが相和して、絵の具やペンなどで描いたものにはない手作りの工芸美が表現できる。
切紙細工のおこりは古く、いつごろから始まったのか、まだはっきりわかっていないが、中国では剪紙(せんし)といい、数多い工芸品のなかでもっとも代表的なものの一つである。日本でも中国と同様祭祀(さいし)用として伝わってきたが、中国のように広く民間で切り抜いて楽しむ手作りの工芸品として普及するには至っていない。紙工芸としてはあまり発展をみなかったが、染物用の型紙としては非常な発達を遂げ、江戸小紋染め、型友禅(ゆうぜん)、沖縄の紅型(びんがた)など優れた作品を生んでいる。切紙細工は、年中行事の祭祀用としてつくられたり、まじないや縁起のために切られたりしてきたが、現在では鑑賞や装飾用として、また年賀状、暑中見舞、贈答用、書籍・雑誌・新聞などのカット、映画のタイトルバック、学校教育にも使われている。
[秋山光男]
『藤井増蔵著『切り紙――中国の切り紙・日本の切り紙・切り紙の技法』(1975・美術出版社)』
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