日本大百科全書(ニッポニカ) 「加速損傷」の意味・わかりやすい解説
加速損傷
かそくそんしょう
外からの力が加わって脳が回転することにより起こる脳損傷。大脳は頭蓋(とうがい)骨の中で架橋静脈とよばれる血管や脳神経などにつながり、脳脊髄(せきずい)液が充満した頭蓋腔(くう)内に浮かんでいる。加速損傷は、激しいスポーツ競技の最中などに頭蓋骨内の脳が回転した勢いでこの血管などが破断されて脳内で出血が起こり、その圧迫による急性硬膜下血腫(けっしゅ)に陥って意識障害を呈する状態をさす。おもに頭蓋骨が回転加速した際に、脳実質がそのままとどまろうとして逆方向に回転するために起こるもので、かならずしも頭部に外傷を受けた場合に限るものでないことに注意する必要がある。また、長時間のスポーツ活動によって疲労が重なったときや、脱水症状に伴い脳が萎縮(いしゅく)傾向にあるときに、より危険性が高まるという報告もある。さらに、社会問題化しているスポーツ指導者による体罰や親による子の虐待(揺さぶり)なども原因としてあげられる。柔道の投げ技などによって脳しんとうと呼ばれる軽度の意識障害を起こすことがあるが、すぐに復帰して活動を続けられることが多い。しかし実は血管に損傷を受けていて、脳しんとうからの回復後に急激に脳内の血腫が増大して重篤に陥ることもあるため、とくに注意が必要である。
[編集部]