脳を保護する3層の膜のうち、最外層の硬膜と中間層のくも膜との間に、主として頭部外傷によって出血した硬膜下出血が、ある程度の大きさになって血塊を生じたものをいう。これには頭部外傷の急性期においてみられる急性硬膜下血腫と、ごく軽微な頭部外傷によって生ずる慢性硬膜下血腫とがあり、この両者はまったく異なる疾患である。以下それぞれについて述べる。
[加川瑞夫]
強い衝撃が頭部に加わり、架橋静脈(脳表面の静脈と硬膜の静脈洞を連結している静脈)が破綻(はたん)したり、脳挫傷(ざしょう)に伴って脳表面の血管が断裂したりしておこる。血腫の好発部位は前頭極、側頭極、大脳半球穹窿(きゅうりゅう)部(最上部)であり、ときに全半球に及ぶ場合もある。いずれにしても打撲部位の近傍に発生するのが普通であるが、反衝損傷といって打撲部位の反対側に脳損傷をおこし、急性硬膜下血腫を生ずることも珍しくない。大部分は脳挫傷を伴っており、かつ血腫による脳の圧迫も強いため、受傷直後から意識が障害されて重篤となるのが普通である。CT(コンピュータ断層撮影法)像は頭蓋骨に接し脳表に沿って三日月形ないし鎌(かま)形に高吸収域が現れる。急性硬膜下血腫は真撃―反衝損傷(coup-contrecoup mechanism)によるものが圧倒的に多い。したがって血腫は前頭葉、側頭先端部にある。橋静脈損傷による場合には、傍矢状洞部を中心にして円蓋部または半球間裂に高吸収域がみられる。
治療は、血腫を除去するとともに、挫滅された脳実質の除去を行い、内減圧を兼ねる。しばしば急性脳腫脹(しゅちょう)を合併する。このときは、血腫除去によって容積を減らすよりも、脳腫脹対策が優先する。CT上、これが予想されるときには、無理な開頭は行わず、積極的な保存療法にゆだねる。脳挫傷を伴わない橋静脈性の硬膜下血腫では、穿頭術による血腫洗浄が行われることがある。
一般に硬膜下血腫では、手術を行ってもなお死亡率は60~70%と高い。また死を免れても、脳損傷による重い後遺症を残すことが少なくない。
なお、小児では軽微な頭部外傷で架橋静脈の破綻をおこし、急性硬膜下血腫を生ずる場合がある。この際は脳挫傷を伴っておらず、早期の適切な手術によって予後は良好である。
[加川瑞夫]
比較的高齢の男性で飲酒癖のある人に好発する。受傷機転が不明確な場合も少なくない。また、あってもごく軽微な場合が多い。だいたい受傷後1~6か月を経て発症する。血腫の成因としては、軽度な衝撃により、硬膜とくも膜との間に小出血がおき、これが反応性の被膜に覆われると、その被膜内外の浸透圧差で内容が増大する。そのため被膜内の新生血管が伸展されて断裂し、血腫をさらに増大させることになると、今日では考えられている。症状としては、若年者では頭痛や嘔吐(おうと)などの頭蓋(とうがい)内圧亢進(こうしん)症状を呈するが、老人ではこのような症状はまれで、記銘力障害、性格変化、活動性の低下などが主たるもので、いわゆる「老人呆(ぼ)け」として放置されがちである。診断では、重要なことは酒客が多いこと、1~2か月前に80~90%に頭部外傷の既往があることである。したがって頭部外傷後、なんらかの症状が悪化する場合は本症を疑う材料となる。CTでは、しばしば両側性に、低吸収域または高吸収域が脳表に沿って広がる。治療は、手術的に血腫を洗い流す方法がとられ、内腔(ないくう)にドレーンを留置し、血腫内容の流出にまかせ、数日後ドレーンは抜去する。急性硬膜下血腫とは異なり、予後がたいへん良好な疾患である。
[加川瑞夫]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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