日本大百科全書(ニッポニカ) 「脳しんとう」の意味・わかりやすい解説
脳しんとう
のうしんとう
脳震盪、脳振盪とも書き、頭部を強打した直後の意識障害が一過性で、麻痺(まひ)などの神経脱落症状をまったく残さずに回復する頭蓋(とうがい)内に限局された閉鎖性脳損傷をいう。通常、一過性であるが、重症の脳しんとうでは永続的な神経脱落症状を示すことがある。臨床的に同じ閉鎖性脳損傷に含まれる脳挫傷(ざしょう)や頭蓋内出血に対し、脳しんとうの場合は、〔1〕意識障害が数分から6時間以内で、この間の記憶を消失(健忘)することがある、〔2〕頭痛、嘔吐(おうと)、めまい、耳鳴り、不穏、興奮をみることがある、〔3〕顔面蒼白(そうはく)、冷汗、呼吸浅薄、血圧下降などのショック症状などがあるが、いずれも短時間に回復し、脳の器質的損傷を示す症状がまったく認められない状態、とされている。一過性の意識障害の発生機序としては、〔1〕衝撃による脳の振動、〔2〕脳実質間の「ずれ」による小出血、〔3〕一過性の脳虚血、〔4〕脳幹への直接の衝撃による一過性脳幹機能麻痺、などがあげられる。特別な治療を必要とせずに回復するが、ショック症状を呈する場合はその対症療法を行う。精神心理テストによれば、脳しんとうからの回復には3か月を必要とするという。
最近、脳しんとうの際、脳血流量の低下とともに、脳幹背側部にグルコース代謝の亢進(こうしん)と細胞外カリウムの上昇があり、組織化学的、電気生理学的にコリン作動性の過剰刺激状態があることが指摘されている。つまり、脳の破壊というより、代謝亢進による伝導路の抑制や細胞機能障害が関与しているものと考えられる。
[加川瑞夫]