反デューリング論(読み)はんでゅーりんぐろん(その他表記)Anti-Dühring

日本大百科全書(ニッポニカ) 「反デューリング論」の意味・わかりやすい解説

反デューリング論
はんでゅーりんぐろん
Anti-Dühring

『オイゲン・デューリング氏の科学変革』Herrn Eugen Dührings Umwälzung der Wissenschaftが正しい書名。盲目のベルリン大学私講師デューリングの論説に対して、エンゲルスマルクスの協力を得て行った批判の書である。ドイツ社会主義労働者党の中央機関紙『フォーアウェルツ』に1877年から1878年にかけて掲載され、完結と同時に単行本として刊行された。広い分野にわたるデューリングの俗流的な理論を批判するため、本書は、哲学、経済学、社会主義の三つの編からなり、弁証法的唯物論と唯物史観、経済学の対象と方法、価値、資本や、科学的社会主義の主張、といったマルクス主義の包括的な体系の積極的な展開を行っており、マルクス主義理論の百科全書ともいうべき著作となっている。

[重田澄男]

『エンゲルス著、村田陽一訳『反デューリング論』(大月書店・国民文庫)』『エンゲルス著、粟田賢三訳『反デューリング論――オイゲン・デューリング氏の科学の変革』(岩波文庫)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

旺文社世界史事典 三訂版 「反デューリング論」の解説

反デューリング論
はんデューリングろん
Herrn Eugen Dührings Umwälzung der Wissenschaft

ドイツの社会主義者エンゲルスの著作
1878年刊。この著書でデューリング(1833〜1921)の批判を通じてマルクス主義を一般にわかりやすく示し,広く受け入れられた。この第一章に手を加えたパンフレットが「空想から科学へ」である。

出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報

世界大百科事典(旧版)内の反デューリング論の言及

【エンゲルス】より

… 理論活動は多岐にわたるが,とくにマルクス主義の各種分野への一般化が重要である。《家族,私有財産および国家の起源》(1884),草稿《自然弁証法》(リャザーノフ編により1925年刊)などもその成果であるが,とりわけ《反デューリング論》(1878)はマルクス主義社会科学の平明な見取図として広く受け入れられ,時々の主流のマルクス主義理論(ドイツ・マルクス主義→ソ連マルクス主義)は主としてこれに依拠している。また,その一章に少し手を加えたパンフレット《空想から科学へ》(1880)は最も多く読まれた入門書である。…

【空想的社会主義】より

…エンゲルスは《反デューリング論》(1878。うち三つの章をP.ラファルグが編んで《空想より科学への社会主義の発展》(1880)が成立)において,マルクスと彼自身が創始した科学的社会主義に対比して,それ以前の社会主義を空想的社会主義と規定した。…

【原始共産制】より

…19世紀後半になるとスラブ人,ドイツ人の土地を共有する共同体の〈遺制〉が研究され,インドの村落共同体研究とあいまって,自由で平等な原始的種族団体が人類史のはじめに設定されるようになる。しかし種族は,ヨーロッパ人の記憶にまだ新しくかつ旧約聖書に知られた家族形態すなわち家父長制家族の拡大したものと考えられ,したがってこの原始的共産制は,婦人・子どもの家父への隷属,および奴隷制をともなうものと考えられた(エンゲルス《反デューリング論》1878)。L.H.モーガンの《古代社会》(1877)は,血縁にもとづく自然的共同体(氏族,部族)こそ本源的な人間の社会的結合であり,夫婦という非血縁関係を中核とする家族は,第2次的な関係で,しかも本来の血縁共同体に対立し,その解体にともなって成長してくる新しい関係であること,血縁共同体は本来は母系制であることを示した。…

【デューリング】より

…75年のゴータ大会(ゴータ綱領)において,それまでのラサール派とマルクス派とが合同して成立したドイツ社会主義労働者党(後のドイツ社会民主党)の一部に対するデューリングの影響には絶大なものがあった。ラサールおよびマルクスを批判しつつ独自の体系を提示したデューリングに対して,エンゲルスは党の中央機関紙《フォアウェルツ(前進)》に反デューリング連載論文(77年1月から78年7月まで)を発表して応戦した(これを合本にしたのが《反デューリング論》と通称される《オイゲン・デューリング氏の科学の変革》(1878)である)。デューリングは,77年に教壇から追放された。…

【弁証法的唯物論】より

…物質なるものは,物々の総体にほかならず,……“物質”とは略語にすぎない〉と言いきる。彼は《反デューリング論》においても,〈物質そのものというのは,純粋な思惟の創造物であり,純粋な抽象である〉と言い,自然科学主義的唯物論流の見地を評して,〈この見地においては物質は根源的には質的に同一だとみなされるのであって,18世紀のフランス唯物論の立場にほかならない。それは,数つまり量的規定をば事物の本質とみなしたピタゴラスへの逆行ですらある〉と批判している。…

※「反デューリング論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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