改訂新版 世界大百科事典 「同所性」の意味・わかりやすい解説
同所性 (どうしょせい)
sympatry
マイヤーE.Mayrが2種(以上)の動物個体群の在り方と地理的種分化の関係を説明するために提唱(1942)した概念で,異所性の対語。〈異なる種の個体または個体群が同じ地域に重複分布している状態〉と定義される。一般に種の進化には,個体群の地理的隔離の過程(それによる遺伝子の不混合)が必要とされ,通常現在みられるような同所性近縁種は,交雑しないほど十分に分化した種が二次的に同所性となって,それぞれの種を維持していると考えられる場合が多い。しかし,近年,同所性種の進化の可能性についても論じられるようになった。例えば,同じ地域や林に2種が生息しても特別な羽斑や声や求愛行動などの違いで生殖隔離が成立する場合などである。また,ホワイトM.J.D.Whiteは真の同所性種の分化の例として,バッタの1種(Keyacris属)の個体群の一部分で外因などによって形態,行動,生理などの関連した突然変異が集中的に起こって新種個群の核ができ,種形成に拡大する過程を論じ(1968),これを静的種形成stasipatric speciationと名づけた。しかし,この場合も,その個体群が特定の生態環境に集まる指向性によって,生態的異所性を経て種の分化が起こったと考えられ,完全な同所性種の分化はあり得ない,とマイヤーは考えている。
執筆者:黒田 長久
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報