日本大百科全書(ニッポニカ) 「バッタ」の意味・わかりやすい解説
バッタ
ばった / 蝗
short-horned grasshopper
locust
昆虫綱直翅(ちょくし)目バッタ亜目のうちバッタ上科Acridioideaおよび少数の近縁群を含むものの総称。触角は短く、後肢が長大となり跳躍肢となっている昆虫群である。イボバッタやオンブバッタの雄のような20ミリメートル程度の比較的小さなものから、タイワンセスジイナゴのように7センチメートルを超える大形のものまで変化に富む。
[山崎柄根]
形態
体は縦形にやや平たい筒形で、褐色型と緑色型の両型をもつものもあるが、概して生息環境の背地に同調する同色性を示すものが多い。
頭部は大きく、縦卵形またはショウリョウバッタのように体の前方に突き出る円錐(えんすい)体形で、触角は糸状が普通であるが、扁平(へんぺい)でやや幅広になるものもある。いずれにしても、コオロギ類やキリギリス類に比べてかなり短い。比較的大きな複眼をもち、短い触角とともに、感覚は目に大きく依存し、行動は日中に行われることを示している。口は典型的なかむ型で、1対の大あごは大きく頑丈である。前胸背板は鞍(くら)形をして後方に伸び、中・後胸を覆い隠す。前胸そのものは短く、胸部は中・後胸が占め、この部分の腹面は地面や植物体などへ着地することにあわせて平面になっている。前翅はさやばね状で、あまり幅広くなく、コオロギ類やキリギリス類のような発達した発音器はもたない。後翅は半円状を呈し、静止時には前翅下に扇子状に折り畳まれている。はねにはいろいろな退化傾向がみられ、まったく無翅のこともある。前・中肢は歩行のための脚(あし)であるが、後肢は腿節(たいせつ)が太くかつ伸長し、力強い跳躍肢となる。なお、脚の跗節(ふせつ)はいずれも3節からなる。一般に腹部第1節の側部に鼓膜があり、聴覚器となっている。腹端部の尾角は雌雄とも一般に単純。雄の生殖下板は半円錐状で、交尾器は複雑な骨片から形成され、とくに上陰茎板は独特の形になる。雌の産卵管は2対の頑丈な弁と中間にある短い1対の弁からなる。
[山崎柄根]
生態
バッタの大多数は草原の生活者である。砂漠にすむサバクバッタや礫(れき)のごろごろした河原を好むカワラバッタなどもあるが、もちろんこれらの種もまばらに存在する草地に依存している。亜熱帯や熱帯地方にはジャングル内に生息する種もある。生活する場は草の茎であったり、地上であったりする。いずれも草食性で、とくにイネ科植物が好まれる。また、例外なく昼行性である。
いくつかの種の雄は、前翅や後肢腿節を用いて発音を行う。おもな発音の機構は、後肢腿節内面の発音小歯列を、後肢のリズミカルな動きによって、前翅の脈にこすりつける方式で、ヒナバッタ類やナキイナゴ類がこれを行う。トノサマバッタのように前翅中脈域に発音脈をもち、これを後肢内面の直線状構造物でこすって発音するようなものもある。いずれにしても発音機構は一様でない。
雄はおおむね視覚や聴覚で雌を認知し、交尾を行う。雄は雌の性フェロモンに引き付けられることもある。交尾は、通常は雄が雌の背の上にのり、雄はS字状に腹部を伸ばして行われる。産卵は、上下の産卵弁を開閉しながら表土に穴をあけ、腹部をこの穴の中へ伸長させて底部に泡の塊をつくり、その中に卵を産み込み、卵鞘(らんしょう)を形成する。孵化(ふか)は同一卵鞘内ではほぼ同時におこり、卵鞘の蓋(ふた)の部分をあけて地上に出る。その後の変態は不完全で、幼虫は成虫と類似した形態となっている。ただし、幼虫は、相対的に頭部が大きく、また、はねのかわりに翅包という将来はねになる突起をもつ。
トノサマバッタやサバクバッタのような種類では、個体の密度が高まってくると、虫自体の性質や形態が変化し、群集性が強まって、集団で行動するようになり、群飛する、いわゆる飛蝗(ひこう)となり、農作物を食い荒らす結果となる。日本でもトノサマバッタの大発生は数回おこったことが知られている。ほかにも害虫化する種は多く、イナゴ類やフキバッタ類は被害を大きくすることがある。
[山崎柄根]
分類
外国には特殊なバッタのグループがいくつか知られ、上科を異にしているが、そのほか大部分のバッタ類がバッタ上科に属する。そのうち日本のバッタ類はオンブバッタ科Atractomorphidae、バッタ科Acrididae、イナゴ科Catantopidae(バッタ科の亜科として扱うことも多い)などに分類される。オンブバッタ科にはオンブバッタ、バッタ科にはトノサマバッタ、クルマバッタなど、イナゴ科にはコバネイナゴ、ツチイナゴ、フキバッタなどが含まれる。
[山崎柄根]