改訂新版 世界大百科事典 「異所性」の意味・わかりやすい解説
異所性 (いしょせい)
allopatry
マイヤーE.Mayrが,〈種の分化には場所的な個体群隔離の過程が不可欠である〉という進化的法則の提唱(1942)の中で定義した語で,同所性の対語。〈二つ以上の種または亜種が繁殖の場を重複せずに分布する状態〉と定義される。島の場合などは単なる地理的隔離分布として説明できるが,同じ地理的地域内に分布していても(地理的同所性),生態的には隣接する2種の個体や個体群が,環境的(高い所と低い所,林と草地など)・社会的(他種がいるために分布の拡大が抑えられている場合)・時間的(繁殖する季節が異なる場合)に〈すみわけ〉ていることが多い(生態的異所性)。しかし種分化が十分でない場合には両者の分布の間で交雑(異所性交雑)が起こることもある。同じ地域を昼夜ですみわける場合は個体群は混じらず,時間的には異所性を保つが,地域的には同所性でもある。類似度の高い個体群(亜種)の多くは異所的にすみわけ,地理的品種の形をとり,特化の進んだ種は重複した非交雑同所分布が可能となり,それが亜種と種の分類学的判定にも用いられる。進化学的に種は必ずなんらかの個体群異所性を経て形成される(allopatric speciation)というマイヤー説に対し,同所的な種の進化(sympatric speciation)の主張もあるが,後者は種の〈形成〉と〈維持〉機構の混同に基づく場合が多い。
執筆者:黒田 長久
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報