原因は不明ですが、唾液の排出管に入り込んだ異物や細菌などを核として、そのまわりに唾液に含まれるカルシウムが沈着してできると考えられます。治療のため摘出した結石を割ってみると、沈着したカルシウムが年輪のようにみえます。結石のできはじめは当然小さいのですが、自然に排出されないと次第に大きくなっていきます。
唾液は唾液腺を構成する無数の
1本しかない排出管に結石があると、唾液の通過障害が起こります。食事をすると、唾液腺は唾液を作って口のなかに出そうとしますが、途中の結石のために唾液が口のなかに出ることができず、唾液腺内にたまり、腺そのものが痛みを伴ってはれてきます。酸味の強いものを食べた時などはとくに症状が強く出ます。
ほとんどの唾石は顎下腺に生じますが、顎下腺の唾石では左右どちらかの(一度に両側にできることはほとんどない)あごの下がはれます。耳下腺では耳の前から下のほうが痛みを伴ってはれます。はれは、食事後しばらくするとだんだん取れてきますが、次の食事をするとまたはれるということを繰り返します。
この症状は結石の大きさに比例しないことが多く、ごく小さなものでも管の出口をふさぐと強い症状が出ます。また食事ごとの症状はある時期にひどく出ても、一時的に出なくなることもあります。
結石が次第に大きくなると、腺そのものの機能が低下し、唾液の分泌が少なくなってしまいます。このようになると、口のなかから細菌が管を通じて入っていき、急性の唾液腺炎を生じることがあります。唾液腺が痛みを伴ってはれ、排出管の存在部位の粘膜が赤くはれて、開口部からはうみが出ます。
典型的な症状があれば、口のなかの視診や触診により診断が可能です。通常結石は1個ですが、時には多発していることもあります。X線による検査、とくにCTが診断・治療に有用です。
結石は自然に排出されることもありますが、多くの場合は手術が必要です。排出管でも出口に近い部位にできたものでは、口のなかで排出管を切り開いて石だけを摘出することにより容易に治療できます。この手術では、まれに摘出部に
前述のような症状がある場合は、耳鼻咽喉科を受診するようにしてください。
谷垣内 由之
唾液腺または導管中に種々の詰まりが存在することで、唾液の流出が停滞し、カルシウム沈着が生じて結石が成長します。
食事時に顎下部の急激なはれ、または強い痛みなどが現れます。
X線検査、CT検査などの画像検査で容易に診断されます。
唾石の位置を画像検査し、唾石の摘出を行います。
唾石の摘出には、口のなかから石のみを摘出する場合と、顎下部を皮膚切開して唾液腺とともに摘出する場合の二通りがあります。
前記の症状がある時は、口腔外科専門医に相談してください。
近藤 壽郎
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
唾液腺(せん)または唾液排泄(はいせつ)導管内に唾液中の石灰分が沈殿して生じた結石を唾石とよび、唾石の存在によって生じる種々の疾患を総称して唾石症という。顎下(がくか)腺管内に生じることが多く、顎下腺体内、耳下(じか)腺体内、耳下腺管内、舌下(ぜっか)腺管内の順に少なくなる。一般に耳下腺、舌下腺には少ない。唾石があってもまったく無症状のこともあるが、唾液の流出が妨げられると、食物摂取時に唾液腺が腫脹(しゅちょう)し、痛みをおこす(唾液仙痛(せんつう))。長期にわたる唾石の存在、とくに導管内の存在によって感染を生じると、排泄導管口付近が発赤、腫脹し、排膿(はいのう)がみられる。炎症が合併すると診断が困難なこともあるが、X線写真、とくに唾液腺造影像では確実に診断される。処置は、唾石が導管内に存在する場合には口腔(こうくう)内より摘出するが、腺体内にある場合には腺全体の摘出を行う。
[矢﨑正之]
…これが一定の大きさになり唾液排出管に詰まると,食物摂取時に唾液腺部が痛んだり,はれたりする。これを唾石症という。治療は唾石の摘出によるが,唾液腺に炎症がある場合は,その唾液腺とともに摘出する。…
※「唾石症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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