商事留置権(読み)しょうじりゅうちけん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「商事留置権」の意味・わかりやすい解説

商事留置権
しょうじりゅうちけん

商法で定められている特別の留置権総称。民法上の留置権(民法295条~302条)に対し要件を変更したり緩和することによって債権者を保護し、信用取引の迅速と安全を図っている。これには三つのタイプがある。(1)商人間の留置権は、双方的商行為によって生じた債権について、債権者がその債務者との間の商行為によって自己の占有に帰した債務者所有の物または有価証券を留置できる権利である(商法521条)。(2)代理商の留置権(同法31条)および問屋(といや)の留置権(同法557条)は、取引の代理・媒介取次によって生じた債権につき、本人または委託者のために占有する物または有価証券を留置できる権利である。以上の留置権は被担保債権と留置物との間の牽連(けんれん)関係を要しない点で、民法上の留置権と異なる。(3)運送取扱人・運送人・船舶所有者等の留置権(商法562条・589条・753条、国際海上物品運送法20条1項)は、運送または運送の取次により運送品に関して生じた法定の債権に関して、運送品を留置できる権利である。この場合は民法上の留置権と同様に、被担保債権と留置物との間の牽連関係を要するほか、その債権は運送品について生じた報酬運送賃・立替・前貸等の債権に限定されている。これは、荷受人が自ら関与しない債権について留置権による対抗を受けることのないよう配慮されたものである。なお、商事留置権の効力については、性質・目的に反しない限り民法上の留置権の規定が適用されるが、債務者破産の場合には、商事留置権者は破産財団に対して優先弁済権が認められている(破産法98条)点で、民法上の留置権と異なる。

[戸田修三]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「商事留置権」の意味・わかりやすい解説

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