改訂新版 世界大百科事典 「団体訴訟」の意味・わかりやすい解説
団体訴訟 (だんたいそしょう)
Verbandsklage
旧西ドイツで発展した訴訟方式で,団体に民事訴訟の原告適格(提訴権)を与えて,訴訟を遂行させるもの。不正競争防止法,値引法,景品令,競争制限禁止法,普通取引約款法,手工業法に規定が置かれている。この制度の始まりは,商工会議所,手工業組合などの同業者団体に,業界の秩序を維持するために,個々の業者の秩序違反行為の差止めを訴求する権限が与えられたことにあり,これらの団体がツンフト制度の下で伝統的に有していた自治権能を背景としたものである。
しかし,今日,この制度が注目を集め,日本においてもその導入の是非が論じられている理由は,旧西ドイツにおいて1965年の不正競争防止法の改正および76年の普通取引約款法で,団体訴訟の原告適格が,消費者団体にも認められた点にある。消費者個々人が企業の経済活動によってこうむる被害が少額であるため,個人の訴訟提起が経済的に引き合わないことや,個人ごとにみると被害がなお不特定で抽象的であるため,個人の訴訟提起は〈訴えの利益〉を欠くなどの理由で許されないことは,現代においてしばしば生ずる現象であるが,団体訴訟は,この消費者の少額多数被害の救済のために有効な制度として期待されている。団体訴訟は,この点でクラス・アクションと同様の意義をもつが,訴訟の提起を消費者個人ではなく,消費者保護のために以前から活動していた団体にまかせる点で,発想を異にする。現行法において団体訴訟が認められるのは,差止請求についてだけであることも,クラス・アクションと異なる点であるが,最近これを損害賠償請求にも広げようとする動きがある。さらに,環境保護問題と関連して,たとえば原子力発電所の設置許可処分などの行政処分の取消訴訟において団体の原告適格を認めるべきであるとの主張があり,ドイツの一部の州ではそのような立法例がすでに見られる。
執筆者:上原 敏夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報