取消訴訟(読み)とりけしそしょう

改訂新版 世界大百科事典 「取消訴訟」の意味・わかりやすい解説

取消訴訟 (とりけしそしょう)

取消訴訟抗告訴訟一種であり,〈処分の取消しの訴え〉と〈裁決の取消しの訴え〉に分けられる。前者は,行政庁の処分その他,公権力行使に当たる行為の取消しを求める訴訟をさし,後者は,審査請求,異議申立てその他の不服申立てに対する行政庁の裁決・決定その他の行為の取消しを求める訴訟をさす(行政事件訴訟法3条2,3項)。

 行政庁の違法行政処分によって私人の権利・利益が侵害された場合,国家賠償請求訴訟などによって損害補塡ほてん)を求めることができるが,取消訴訟は行政処分の適否を直接争うことのできる訴訟形式であるから,行政庁の違法な公権力の行使による権利・利益の侵害を阻止し,あるいは侵害された権利・利益の回復を図ることができる。ここに,直接的な権利救済制度としての取消訴訟制度の特徴がある。

訴えが適法に裁判所に係属するための要件を訴訟要件というが,取消訴訟についても次のような訴訟要件がある。(1)取消訴訟の対象となる行政処分または裁決の存在すること。現在では行政の活動様式は多様になっており,それに応じて行政処分の概念も広がってきているが,しかしなお,行政の具体的活動についてその処分性が問題になることがしばしば生ずる。(2)管轄権を有する裁判所に出訴すること。原則として,被告行政庁の所在地の裁判所に管轄権が認められる。(3)当事者適格を有すること。とくに原告は,当該処分または裁決の取消しを求めるにつき〈法律上の利益〉を有する者でなければならない(9条)。もっとも,そこにいう〈法律上の利益〉とはいかなる利益をさすかについては学説・判例上見解の対立がある。取消訴訟のもつ権利救済制度としての側面を重視する観点からは〈法律上の利益〉は比較的狭く解され,取消訴訟のもつ〈行政の適法性の統制〉という側面を強調する立場からは,逆に,〈法律上の利益〉が広く解されることになる。(4)処分の取消しの訴えは,審査請求や異議申立て等の不服申立てをすることができる場合であっても,ただちに提起することができる。しかし,法律に別段の定めがあるときは,不服申立ての前置を必要とする(8条)。(5)出訴期間を遵守すること。取消訴訟は,処分または裁決があったことを知った日から3ヵ月以内に提起しなければならない(14条1項)。

処分の取消しの訴えを提起しても,処分の効力,処分の執行または手続の続行は妨げられない(25条1項)。これを執行不停止の原則という(執行停止)。しかし,回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるときは,裁判所は,申立てにより,執行停止の決定を下すことができる(25条2項)。取消訴訟の本案審理では処分または裁決の違法性が審理される。裁量処分については,裁量権の範囲を超えまたはその濫用があった場合にかぎり,裁判所はその処分を取り消すことができる(30条)とされている。処分または裁決の適法性を根拠づける事実については,原則として被告行政庁が立証責任を負う。処分または裁決を取り消す判決(取消判決)は,その事件について,当事者たる行政庁その他の関係行政庁を拘束する(33条1項)。したがって,同一理由に基づく同一内容の処分を反復することは許されない。また取消判決は第三者に対しても効力を有する(32条1項)。そこで,取消判決により権利を害される第三者には,訴訟参加の申立てまたは〈第三者の再審の訴え〉が許されている(22,34条)。取消訴訟については,いわゆる事情判決の制度が設けられている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「取消訴訟」の意味・わかりやすい解説

取消訴訟
とりけしそしょう

行政庁の処分・裁決その他公権力の行使がなされたのちに、それを元の状態に戻すこと(取消し)を求める訴訟をさす。公権力の行使に対する救済手段である抗告訴訟の典型である。取消訴訟には、行政庁の第一次的な判断である処分の取消しの訴えと、審査請求、異議申立てなどの不服申立てに対する裁決の取消しの訴えがある。裁決の取消しの訴えにおいては、裁決固有の瑕疵(かし)だけを主張でき、原処分の違法を主張するには原処分の取消しの訴えを提起しなければならない(原処分主義という)。取消訴訟を提起するためには処分・裁決の取消しを求める法律上の利益(訴えの利益)がなければならない。訴えは処分・裁決を知ったときから原則として6か月以内に提起しなければならない。取消判決は行政処分を遡及(そきゅう)的に消滅させ、行政庁を拘束し、第三者に対しても効力をもつ。

[阿部泰隆]

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