日本大百科全書(ニッポニカ) 「国連人道問題調整事務所」の意味・わかりやすい解説
国連人道問題調整事務所
こくれんじんどうもんだいちょうせいじむしょ
UN Office for the Coordination of Humanitarian Affairs
大規模災害や武力紛争時に緊急人道支援をする国際連合事務局の一部局。「コーディネーション(調整すること)で命を救う――Coordination Saves Lives」をモットーに、被災地や紛争地の人命を守るため、国際機関や各国政府、民間組織などの調整役を果たしている。略称OCHA(オチャ)。前身は1971年に発足した国連災害救済調整官事務所で、1991年の第46回国連総会決議に基づき設立が決まり、1997年の国連人道問題局の再編に伴い、現在の組織となった。本部はアメリカのニューヨークとスイスのジュネーブにあり、2013年時点で世界50か国以上に事務所をもつ。職員は2014年3月時点で国際専門職員が615人おり、スタッフを含めると約2000人となる。トップは緊急援助調整官(ERC:Emergency Relief Coordinator)が務め、国連事務次長(人道問題担当)職を兼務する。初代の緊急援助調整官はスウェーデンの外交官であったジャン・エリアソンJan Eliasson(1940― )である。年間予算は2012年時点で約2億4000万ドル。この95%以上をヨーロッパ、アメリカ、日本などの主要国からの任意拠出金でまかなっている。
国連人道問題調整事務所は災害が発生すると24時間以内に災害評価調整チームを派遣する。そして国連世界食糧計画(WFP)、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、国連児童基金(UNICEF)などのほか国際赤十字、各国政府・自治体、非政府・ボランティア組織、民間企業などと連携し、支援の需要や優先順位を把握し、人道支援、物資の輸送・配分、援助部隊の動員、情報提供・管理などの総合的支援計画をまとめる機能を担う。また、被災地や紛争地の「声なき声」の代弁者として、現地の惨状を正確・迅速に世界に発信する責任をもつ。2006年には国連中央緊急対応基金(CERF:Central Emergency Response Fund)を設立。年間予算約4億3000万ドルを運用し、融資を通じて緊急援助や復興に役だてている。これまでチェルノブイリ原子力発電所事故、パレスチナ紛争、ハリケーン・カトリーナ被害、スマトラ島沖地震・津波などで人道支援を実施し、日本も2011年(平成23)の東日本大震災時に支援派遣を受けている。
[矢野 武 2015年2月17日]