改訂新版 世界大百科事典 「地人相関論」の意味・わかりやすい解説
地人相関論 (ちじんそうかんろん)
土地によって代表される自然と人間との間には,相互に作用し合う関係があり,地理学の研究は地域に即した地人相関現象を主題として扱うという見解。自然,とくに気候が民族性や生活に影響を及ぼすといった自然を主格とする素朴な自然環境決定論による説明は,古代ギリシアから近世の啓蒙思想家たちに至るまで継承されてきた。そうした所説を批判し科学的環境論の基礎をつくったF.ラッツェルにおいても,どちらかといえば自然が人間に及ぼす影響という命題に重点がおかれていた。それに対して,アメリカ合衆国の自然保全運動の父と呼ばれるマーシュG.P.Marshは,1864年に《人間と自然,あるいは人為によって改変された自然の地理》という著書において,すべて人間を主格とする自然変貌論を展開した。ヨーロッパにおいても20世紀初頭ころより,景観改変者ないし形成者として人間の役割に視点をおいた人文地理学の研究がしだいに盛んになった。しかし,それと並行して自然と人間とは相互に作用し合うとする折衷論が1920年前後に現れた。そのころ日本では大学アカデミズムの形成初期にあたり,地理学方法論が模索されていた。折しも内田寛一が《地人相関の理法的研究に就いて》(1926,27)という論文を《地理教育》誌上に発表したが,かなりの反響をよび,地人相関論は,これと類似の交替作用理論とともに,第2次大戦前において地理学方法論上の一角を占めていた。
執筆者:西川 治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報