日本大百科全書(ニッポニカ) 「ラッツェル」の意味・わかりやすい解説
ラッツェル
らっつぇる
Friedrich Ratzel
(1844―1904)
ドイツの地理学者。1866~68年カールスルーエに生まれ、ハイデルベルクイエナ、ベルリンの各大学に学んだのち、新聞社の通信員としてヨーロッパ南部、アメリカなどにも赴き、普仏戦争にも従軍した。72年ミュンヘン大学でふたたび地理学を修め、86年にはライプツィヒ大学の地理学教授に就任した。その間、『アメリカ合衆国』Die Vereinigten Staaten von Amerika(1878~80)、『人類地理学』Anthropogeographie(I・1882、Ⅱ・1891)、『政治地理学』Politische Geographie(1897)などを刊行した。リッターによって創始された人文地理学はラッツェルによってさらに発展され、人類社会や国家と地理的環境との関係を多くの例証をもって論じた。リッターの目的論的な立場に対して、ラッツェルは当時流行のダーウィンの進化論の影響を受け、人類社会に及ぼす自然環境の影響を生物学的な立場から考察して、人文地理学を体系づけた。また、民族学にも関心を有し、大冊の『民族学』Völkerkunde(1885~88)も著した。
[織田武雄]
『国松久弥著『フリードリッヒ・ラッツェル』(1931・古今書院)』