日本大百科全書(ニッポニカ) 「地域貿易協定」の意味・わかりやすい解説
地域貿易協定
ちいきぼうえききょうてい
regional trade agreements
特定地域内の複数の国・地域の間で、モノやサービスなどの移動をほぼ完全に自由にしようというFTA(自由貿易協定)や関税同盟の総称。英語名称の頭文字をとってRTAsと略称する。1958年にヨーロッパ経済共同体(EEC)設立を決めたローマ条約が第1号とされる。現在のヨーロッパ連合(EU)、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定、2020年発効)、ロシアと周辺国によるユーラシア経済同盟(2015年発足)、ブラジルやアルゼンチンなどによるメルコスール(南米南部共同市場、1995年発足)、TPP(環太平洋経済連携協定、2018年発効)、RCEP(アールセップ)(東アジア地域包括的経済連携、2022年発効)、アフリカ大陸自由貿易圏(2019年発効、2021年運用開始)などが該当する。世界貿易機関(WTO)の多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)が先進国と新興国との利害対立などで頓挫(とんざ)するなか、交渉が妥結しやすい地域単位の自由化を優先する動きが加速し、地域貿易協定は増加している。WTOによると、世界の地域貿易協定の数(発効ベース、累積数)は1990年代前半に50台であったが、2000年代初頭に100を超え、2021年12月時点で353に増えている。
経済学的に地域貿易協定には、域内関税などの貿易制限を撤廃する「FTA」、域内の制限撤廃に加え域外に共通関税をかける「関税同盟」、さらに労働力や資本の移動制限も撤廃する「共同市場」、共同市場を基に金融・財政・通貨政策を調整する「経済同盟」などがある。WTOはすべての加盟国・地域を無差別に扱う最恵国待遇を基本としており、特定国間の自由化は原則として容認していない。しかし地域貿易協定については貿易自由化に役だつとの判断から、モノの貿易についてはガット(GATT、関税と貿易に関する一般協定)第24条、サービス貿易についてはガット第5条に定めた条件を満たせば、認められている。ただ地域貿易協定の急増は、原産地規制など異なるルールの乱立をもたらし、経済のブロック化を招きかねないとの批判が自由貿易や市場原理を重視する経済学者などから出ている。
[矢野 武 2022年3月23日]