日本大百科全書(ニッポニカ) 「USMCA」の意味・わかりやすい解説
USMCA
ゆーえすえむしーえー
アメリカ、メキシコ、カナダ間の貿易協定。英語表記、the United States-Mexico-Canada Agreementの略称。米国・メキシコ・カナダ協定と訳されている。保護主義的政策を進めたアメリカ前大統領トランプの意向を受け、2018年に従来のNAFTA(North American Free Trade Agreement、北米自由貿易協定)を抜本的に見直したUSMCAに3か国が署名し、2020年に発効した。新協定は16年間有効。USMCAは協定名からFree Trade(自由貿易)の文言を外したように、アメリカへの乗用車輸出数量に規制を設けるなど保護貿易の色彩が濃い。ヨーロッパや中国などから、USMCAの輸入数量規制などは世界貿易機関(WTO)ルールに抵触するおそれがあるとの指摘が出ているが、バイデン政権もUSMCAを厳格に実行する姿勢である。
USMCAは序章を除いて34章の条文と附属文書からなり、「労働」「環境」「中小企業」などの協定文が加わり、NAFTA(22章)より長く、管理貿易の記述が多い。カナダとメキシコがアメリカへ輸出できる乗用車については、年間260万台を超える場合は関税を課して規制する。エンジンや変速機といった部品・部材の域内調達比率を発効から3年間かけて66%から75%へ引き上げ、原産地規制を厳しくした。部品・部材のうち40~45%を労働者の時給が16ドル以上の地域で生産する義務も課した。「為替(かわせ)介入を含む競争的な通貨切下げを自制する」と明記し、相手国の通貨安を防ぐ為替条項も盛り込んだ。非市場経済国と自由貿易協定(FTA)を結べば、USMCAを解除できるとする条項があり、中国などとのFTA締結を牽制(けんせい)する内容も盛り込んだ。USMCAはアメリカ国内への生産回帰を促し雇用を増やすねらいがあったが、アメリカ国内で生産増に乗り出すメーカーは一部にとどまり、雇用増にはつながっておらず、関税を払ってでもメキシコなどで生産を続ける動きもでている。
[矢野 武 2022年3月23日]