改訂新版 世界大百科事典 「大型パネル工法」の意味・わかりやすい解説
大型パネル工法 (おおがたパネルこうほう)
large panel construction method
2辺の寸法がルームサイズ以上のパネル(板状の部材)を一般に大型パネルといい,大型パネルを組み立てて,屋根,床,壁として用いる建築の施工法を大型パネル工法という。パネルの材料には木材,金属,プラスチックなどもあるが,コンクリートが一般的である。現場工事における労務工数はパネルが大型なため少なくてすむが,反面,小型のブロックなどによるものと同程度の汎用(はんよう)性をもたせようとすると,多くの部品種を要し,また1部品当りの使用個数が少ないなどの理由からコストアップを招きがちである。このため,大型パネルによる建築では設計の自由度に制限を設けることが多い。大型パネルとしてプレキャストコンクリート版を使ったものは,コンクリートプレハブ建築の中でもっとも典型的なものである。この場合,パネルとパネルの緊結は埋設された鋼材どうしを溶接することのほか,鉄筋の接合,コンクリートのグラウトという方法もよく用いられる。大型パネル工法は,欧米諸国では古くから用いられていた煉瓦やブロックを大型化し,組立てを簡単にするという発想から始まっており,その程度のものまでを含めると,20世紀初頭には実用化していたといえる。工法として確立,整備されたのは第2次世界大戦後,東欧やソ連においてで,多くの実績ももっている。日本では現場打ちの壁式コンクリート造を分割,パネル化するという,欧米とはまったく逆の発想から始まっており,1950年代後半に日本住宅公団を中心に実用化研究が進められた。現在においても大型パネル工法は5,6階建て以下の中層集合住宅に数多く用いられている。
ティルトアップ工法
大型パネル工法と似た工法にティルトアップ工法tilt-up construction methodがある。これはあらかじめ建設現場の地上面で外周壁などの大型パネルを製作し,その後,このパネルを立て起こし組み立てる建築の施工法である。道路運搬が不可能な程度に大型なものまで,地上で安全に製作することができるというメリットがあり,鉄骨骨組みの組立てなどにも用いられることがある。コンクリートによる大型パネル工法の最初の実用化段階では,欧米でも日本でもティルトアップ工法が用いられている。
執筆者:大野 隆司
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報