改訂新版 世界大百科事典 「太平経」の意味・わかりやすい解説
太平経 (たいへいきょう)
Tài píng jīng
中国における道教経典の一種。《道蔵》には欠巻をともなう57巻本と唐末の閭丘方遠(りよきゆうほうえん)が抄出したという《太平経鈔》10巻が収められている。天の使者としてくだった〈神人(または天師)〉が,有徳の君主に伝えさせるべく,地上世界の救済の方法を弟子の〈真人〉に告げる部分が中心をなす。とりわけ,〈太陽・太陰・中和〉の三気,ならびに三気に対応する〈天・地・人〉〈日・月・星〉〈父・母・子〉〈君・臣・民〉〈道・徳・仁〉など,自然や人倫の調和によって太平が実現されることが説かれる。現在の《太平経》と前漢の甘忠可が成帝に献じたという《天官暦包元太平経》12巻,あるいは後漢の宮崇(きゆうすう)が于吉から伝授され順帝に献じたという《太平清領書》170巻との関係,また《太平経》と太平道の組織者でありかつ黄巾の乱の指導者であった張角との関係など,未解決の問題は多いが,道教経典中の古層に属することは疑いがない。
執筆者:吉川 忠夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報