中和(読み)チュウワ

デジタル大辞泉 「中和」の意味・読み・例文・類語

ちゅう‐わ【中和】

[名・形動](スル)
性格や感情がかたよらないで穏やかであること。また、そのさま。
「一に無偏無党の―ならざるはなし」〈利光鶴松・政党評判記〉
性質の異なるものが、互いに融和してそれぞれの性質を失うこと。また、毒などの成分を薄めること。「彼といるとせっかちな私の性格が中和される」
塩基とが当量ずつ反応してえんを生じること。「酸とアルカリ中和する」
等量の正電荷負電荷が重なり合って電荷がなくなること。
音韻論上の用語。ある音素間の対立的特徴が一定の条件のもとに失われる現象をいう。例えば、ドイツ語の語末においては、tとdなどの無声と有声の対立がなく、無声音しか立たないことなど。
[類語]酸化塩化硫化炭化還元

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精選版 日本国語大辞典 「中和」の意味・読み・例文・類語

ちゅう‐わ【中和】

  1. 〘 名詞 〙
  2. ( 形動 ) 性格や感情、性質などが、かたよらないで、正しいこと。調和のとれていること。程よくおだやかなこと。また、そのようなさま。ちゅうか。
    1. [初出の実例]「寒甚者噎(むせ)、熱過者爛(くさる)。令其調適不一レ中和者。勧誘人尤可用意事歟」(出典:貴嶺問答(1185‐90頃))
    2. 「楽は中和の徳をやしなひ、きしつをすくふ道也」(出典:わらんべ草(1660)一)
    3. [その他の文献]〔礼記‐中庸〕
  3. ( ━する ) 酸と塩基が当量の比で反応して塩と水を生ずる反応。酸も塩基も水溶液中では電離しているので、水素イオンと水酸イオンが結合して水を生ずるもの。
    1. [初出の実例]「剥篤亜斯(ポットアス)、〈略〉亜爾鮮(アルセム)塩も亦炭酸加里なり。然れども炭酸と熟く中和する者にあらず」(出典:舎密開宗(1837‐47)内)
  4. ( ━する ) 性質の異なるものが融合して、それぞれの特性を失うこと。異質の物質を加えて、ある物質の効力を弱めること。
    1. [初出の実例]「陸と海と温度も丁度中和の時刻で、大気は凝って戦(そよ)との風も動かず」(出典:青春(1905‐06)〈小栗風葉〉秋)
  5. 高周波増幅回路において、帰還によって回路が自己発振するのを防ぐこと。

ちゅう‐か‥クヮ【中和】

  1. 〘 名詞 〙 ( 形動 ) ( 「か」は「和」の漢音 ) =ちゅうわ(中和)
    1. [初出の実例]「軽清(かろくきよき)物は天となり、重濁(おもくにごれる)物は地となり、中和気(ちゅうクヮのき)は人となる」(出典:神皇正統記(1339‐43)上)

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改訂新版 世界大百科事典 「中和」の意味・わかりやすい解説

中和 (ちゅうわ)
neutralization

性質の異なるものをいっしょにすることにより,それぞれの特性を失わせたり,あるいはその効力を弱めることを一般に中和という。等量の正および負の電荷がいっしょになれば,外部には電荷の影響がまったく現れなくなる。これを正負の電気が中和したという。また,病原体の出す毒素や,マムシなど動物の毒を適当な抗血清を用いて無害化するのも中和である。化学においては,狭義には,水溶液中の酸と塩基が当量反応して,塩と水を生ずるのが中和である。水溶液中の強酸と強塩基中和反応では,生じた塩がほとんど完全に電離するので,結局,水素イオンと水酸化物イオンから水を生成する反応となる。このため,正しい当量点での水素イオン濃度は純水の電離による水素イオン濃度(pH=7)となり,中性である。しかし,水溶液中で水素イオンを多量に電離する強酸,たとえば塩酸と,水酸化物イオンを少量電離する弱塩基,たとえばアンモニアとの中和反応では,その当量点で弱酸性を示し,一方,弱酸と強塩基の中和当量点では弱アルカリ性を示す。

 酸と塩基の定義が拡張されると,中和の解釈も変わってくる。ブレンステッドJohannes Nicolaus Brønsted(1879-1947)らによると,酸とは陽子を放出しうる物質であり,塩基とは陽子を獲得しうる物質であるから,中和とは酸から塩基への陽子の移行により,解離しがたい共役な塩基と酸を生ずることである。また,G.N.ルイスによると,酸は電子対を受ける物質であり,塩基は電子対を提供する物質であるから,両者の間の反応は陽子の移行を伴わなくても中和である。

 たとえば,つぎの式で示すように,三塩化ホウ素BCl3(酸)がトリエチルアミン(C2H53N(塩基)のもつ電子対を共有して結合を作ったり,

のような錯化合物の生成もまた,中和とみなされる。
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中和 (ちゅうか)

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化学辞典 第2版 「中和」の解説

中和
チュウワ
neutralization

】一般に,1モル量の酸と1モル量の塩基が反応して,塩および水を生成する現象をいうが,ブレンステッド酸・塩基についていえば,必ずしも塩および水を生成するのではなく,それぞれと共役の塩基および酸を生成する.したがって,次にあげた例のうち,(1)および(2)だけでなく,すべてが中和反応である.

 (1) H3O + OH → H2O + H2O

 (2) CH3COOH + (Na)OH → H2O + (Na)CH3COO

 (3) HCl + NH3 → NH4 + Cl

 (4) HCl + (Na)CH3COO → CH3COOH + (Na)Cl

 (5) (NH4)Cl + (Na)OH → H2O + NH3 + (Na Cl)

】正の電荷と負の電荷,あるいはこれを保有する物質あるいは反応中間体が,反応あるいは相互作用により,電気的に中性な状態を生じる現象.この場合は電荷の再結合ともいう.たとえば,原子,分子のイオン化で生じた正イオンが,電子あるいは負イオンと反応して,中性の励起状態あるいは安定な化合物を生じる場合などがある.

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「中和」の意味・わかりやすい解説

中和(ちゅうわ)
ちゅうわ
neutralization

正電荷と負電荷、酸と塩基、あるいは毒素と抗毒素のように、互いに対立する性質をもつものどうし(正負、陰陽など)が作用しあい、それぞれの属性が打ち消し合うことをいう。

 酸と塩基の場合、その定義によっていくらかの差はあるが、スウェーデンアレニウスの定義によれば、水素陽イオン(実はヒドロニウムイオン)と水酸化物イオンとの反応が中和である。

  H++OH-→H2O
   (H3O++OH-→2H2O)
酸HAと塩基BOHとの反応であれば、
  HA+BOH―→BA+H2O
となり、中和反応によって水と塩BAを生ずる。この中和反応は、反応速度が大きく、熱量の発生も大きい特徴がある。この熱量を中和熱というが、希薄な強酸・強塩基中和反応では、酸・塩基の種類によらず、1モル当り約58.2キロジュール(約13.9キロカロリー)となる。

 デンマークのブレンステッドの定義によれば、プロトン性溶媒が解離して生じた共役酸イオンと共役塩基イオンが反応して、溶媒分子を与える反応が中和である。ブレンステッドおよびアメリカのG・N・ルイスの定義によれば、固相反応あるいは気相反応においても酸・塩基の反応が説明される。

  CaO+2HCl―→CaCl2・H2O
  Na2O+SiO2→Na2SiO3
[岩本振武]


中和(ちゅうか)
ちゅうか

岡山県中北部、真庭郡(まにわぐん)にあった旧村名(中和村(そん))。現在は真庭市の北東部を占める地域。旧中和村は、2005年(平成17)北房(ほくぼう)、勝山(かつやま)、落合(おちあい)、湯原(ゆばら)、久世(くせ)の5町、美甘(みかも)、川上、八束(やつか)の3村と合併して市制施行、真庭市となった。鳥取県境の中国山地上にあり、旭(あさひ)川の上流の下和(したわ)川流域を占める山村。国道313号、482号が通じる。地域の大部分が林野で、めぼしい産業はなく、過疎地になっている。津黒高原には温泉、キャンプ場、スキー場などがある。

[由比浜省吾]

『『中和村史』(1975・中和村)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「中和」の意味・わかりやすい解説

中和
ちゅうか

岡山県北部,真庭市北東部の旧村域。中国山地にあり,北部と東部で鳥取県に接する。 2005年北房町,勝山町,落合町,湯原町,久世町,美甘村,川上村,八束村の8町村と合体して真庭市となった。農林業が主産業で,タバコ,ワラビ,山ウドを産し,乳牛を飼育する。国の天然記念物のオオサンショウウオの生息地として知られる。東部の津黒高原にはスキー場,キャンプ場,国民宿舎,温泉などがある。ほとんどが湯原奥津県立自然公園に属する。

中和
ちゅうわ
neutralization

(1) 酸と塩基とが反応して,水と塩を生じること。広義には水素イオン濃度が中性へ向って変化する過程のこと。中和反応により溶液は普通は中性になるが,必ずしも完全中性になるとはかぎらない。塩酸と水酸化ナトリウムとの中和で,食塩と水を生じる反応は代表的な中和の例である。 S.アレニウスは水溶液中での中和を,H+ と OH- イオン間で H2O を生成する反応と考えて説明した。 J.N.ブレンステッドの酸塩基では水素イオン,G.N.ルイスの酸塩基では電子対の移動として説明される。
(2) 正の電荷と負の電荷が相殺されて,荷電が消失すること。

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普及版 字通 「中和」の読み・字形・画数・意味

【中和】ちゆうわ

中正で調和があること。〔中庸、一〕喜怒哀樂の未だ發せざる、之れを中と謂ふ。發して皆に中(あた)る、之れを和と謂ふ。~中和を致して、天地位し、す。

字通「中」の項目を見る

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百科事典マイペディア 「中和」の意味・わかりやすい解説

中和【ちゅうわ】

(1)酸性の物質と塩基性の物質とが反応して,そのいずれでもないものを生ずること。普通には酸と塩基とが反応して塩を生ずることをいう。水酸化ナトリウムと塩酸とが反応して塩化ナトリウムを生ずる反応など。  NaOH+HCl→NaCl+H2O(2)電気的には正および負の電荷が打ち消しあって外部に電荷の影響が現れなくなる現象をいう。(3)細菌・ウイルス・毒素などに抗体が結合して,それらの働きを抑えること。

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栄養・生化学辞典 「中和」の解説

中和

 酸から生じるHと塩基から生じるOHが反応して水になり,酸,塩基の性質を示さなくなる現象.

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「中和」の解説

中和 ちゅうわ

喜多中和(きた-ちゅうわ)

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世界大百科事典(旧版)内の中和の言及

【音韻論】より

…/spin/〈つむぐ〉に対し*/sbin/(*は措定形であることを示す)という対立はないので,/s/音の後では/p/と/b/はこえの対立をなさない。これを中和neutralizationと称する。さらにR.ヤコブソンは弁別的素性を調音的でなく音響的特徴により記述しようと試みた。…

【音韻論】より

…/spin/〈つむぐ〉に対し*/sbin/(*は措定形であることを示す)という対立はないので,/s/音の後では/p/と/b/はこえの対立をなさない。これを中和neutralizationと称する。さらにR.ヤコブソンは弁別的素性を調音的でなく音響的特徴により記述しようと試みた。…

※「中和」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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