日本大百科全書(ニッポニカ) 「契約の箱」の意味・わかりやすい解説
契約の箱
けいやくのはこ
Ark of the Covenant
古代イスラエルにおいて、その初期に、モーセの十戒(じっかい)が刻まれた2枚の石板が納められていたという木製の箱のこと。十戒は、神ヤーウェとイスラエルの民の間で結ばれた契約に基づく掟(おきて)であったので、この箱が契約の箱(櫃(ひつ))、または律法の箱とよばれる。箱は長さ1.3メートル、幅と深さ約79センチメートルの長方形で、金の延べ板で内外ともに覆われていたという。イスラエルの民が約束の地カナーンに進入する際(前13世紀ごろ)、祭司がこの箱を担いで進んだ。イスラエルの民のカナーン定住後、ペリシテ人により一時この箱が持ち去られたが、ダビデがこれを取り返し、続くソロモンの時代に、エルサレム神殿が建立されるに及んで、この箱は神殿内の至聖所に安置された。その後の契約の箱の行方は、『旧約聖書』に言及がないために不明である。宗教史的には、この箱は元来、ヤーウェの玉座、すなわちヤーウェの臨在の象徴であったろうともいわれる。なお一部俗説に、日本の神輿(みこし)との連関を説くものがあるが、歴史的には証明の限りではない。
[月本昭男]