運搬(読み)うんぱん

精選版 日本国語大辞典 「運搬」の意味・読み・例文・類語

うん‐ぱん【運搬】

〘名〙
① 人や品物を、ある場所から他の場所へ運ぶこと。〔英和記簿法字類(1878)〕
※満韓ところどころ(1909)〈夏目漱石〉二七「馬の力ではどうしても運搬(ウンパン)が出来なかったこともある」
河水海水、風などが、土砂砂礫などを運ぶ地理現象。

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デジタル大辞泉 「運搬」の意味・読み・例文・類語

うん‐ぱん【運搬】

[名](スル)物品を運び移すこと。「建築材を運搬する」
[類語]運ぶ運送輸送搬送配送通運運輸郵送移送配達宅配発送逓送陸運海運水運空輸

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「運搬」の意味・わかりやすい解説

運搬
うんぱん

物資、もしくは人間や動物の所在位置を移し変えることをいう。より平易な表現を用いるなら、「運ぶ」といいかえることもできる。運搬のもっとも原初的な形態は、人間が自ら肉体を駆使して行うものであった。たとえば、物を直接手に持ったり、あるいは子供を抱いて行く、といったたぐいのことである。次に第二段階として、それだけでは充足しきれなくなると、用途に応じた用具が考案され、使用されるようになっていく。たとえば、紐(ひも)で子供を背中に負って行く、といったことがその例である。いずれにせよ、人力を用いて行うことが基本であり、「運搬」の語も元来はこの種の行為を指し示すものであった。しかし現在では、人力によらない車両などを用いる際にも、このことば拡大解釈されて使われるようになっている。

 人力運搬については、現在みられる形態は、なんらかの用具を用いて行うのがむしろ一般的である。これは未開人にも当てはまることで、それほどこの行為が日常生活に必要欠くべからざるものであることを示しているといえよう。人や物資をより効率的に運びたいというのは人類共通の願いであった。人力運搬の形態が、世界各地民族の文化を比較する重要な指標の一つとされるゆえんである。それらはまことに多彩な様相を呈しているが、基本的には5種類に区分することができる。第一は頭の上にのせて運ぶ頭上運搬、第二は肩を使う肩担い運搬、第三は背中に負う背負い運搬、第四は腰につける腰提げ運搬、そして第五は手に持つ手持ち運搬である。一方、人力によらない場合は元来「運送」の語が用いられていたが、いまは「運搬」も混用されるようになっている。しかし、その用法は慣用的なもので、区分の基準はかならずしも明確にされているわけではない。

 以下、人力運搬の諸形態を中心として解説をする。

[胡桃沢勘司]

頭上運搬

頭の上にのせて運ぶ方法である。もっぱら物資を運ぶもので、人間や動物が対象とされることはない。由来は古く、古墳時代にはすでに行われていたことが確認されている。分布範囲はほぼ日本全国に及ぶが、比較的西日本に多くみられ、沖縄県でも確認されている。しかし、東日本、とくに東北地方では希薄であり、宮城県の江島(えのしま)(牡鹿(おしか)郡女川(おながわ)町)が最北端とされている。これの特徴は、主として女性が行うということである。京都の大原女(おはらめ)、伊豆大島のあんこ、瀬戸内海各地の魚行商などが代表例である。大原女は薪(たきぎ)をのせて売り歩き、あんこは水くみの際桶(おけ)をのせる。そして、この水くみこそは、頭上運搬を近年まで各地に存続せしめた大きな要因といってよい。水道が普及するまで、井戸から水を運ぶには、この方法でなされることが多かったからである。しかし、重い桶を頭にのせて歩くことは、女性にとって重労働であった。伊豆諸島の御蔵島(みくらじま)で、水道が通じた翌日から1人としてこれをする者はいなくなったといい伝えられているのは、その過酷さを示す一例である。運搬具は用途に応じて異なり、魚ならば籠(かご)、水は桶もしくは壺(つぼ)を用いる。薪は縄で結わえて、そのままのせてしまう。いずれにせよ、頭に直接のせるのは負担なので、手拭(てぬぐい)などを置いた上にのせた。なお、日本ではすでに廃れかけているこの運搬法も、東南アジア諸国、アフリカなどの発展途上国ではいまも広く日常生活に生かされているのである。

[胡桃沢勘司]

肩担い運搬

肩を使って運ぶ方法である。両肩を使う場合、およびどちらか一方だけを使う場合がある。物資を運ぶのを主とするが、人間を対象とすることもある。ほぼ日本全国に分布し、東日本では平地に限られるが、西日本では長距離・坂道においても用いられている。担い方は、肩に直接のせるか、籠や袋に入れて肩にかけるか、棒に下げてかけるかの3通りがある。どちらか一方の肩だけを使うことが多いが、肩車や、棒を用いるときは両肩にかけることもある。そして、棒を用いる方法はさらに4通りに分けられる。第一は棒の一端に荷物をつけて1人で担う「かたにない」、第二は棒の両端に荷物をつけて1人で担う「てんびんかつぎ」、第三は棒の中央部に荷物をつけて2人で担う「さしにない」、第四は棒を2本以上用いて中央部に荷物をつけて4人以上で担う方法である。第一の事例としては江戸時代の飛脚(ひきゃく)があげられよう。比較的軽いものを運ぶことが多い。第二はもっともポピュラーなもので、いまでも天秤棒(てんびんぼう)で担う人をみかけることがある。この場合、両肩を使うこともある。第三の方法は、江戸時代の駕籠(かご)を例にあげられるように、人間を運ぶこともできる。現在も、工事現場で土砂の運搬などにこれが行われている。第四はもっとも重量に耐えられるもので、家具、調度品、また人間を運ぶこともある。江戸時代、大井川で旅人を渡すのに用いられた蓮台(輦台)(れんだい)はその好例といえよう。なお、この運搬法も日本ではもはや廃れかけているが、中国、東南アジア方面では、たとえば「てんびんかつぎ」で商人が魚や野菜を運ぶなど、いまも盛んに行われている。

[胡桃沢勘司]

背負い運搬

背に負って運ぶ方法である。物資ばかりでなく、人間も対象とされる。子供や老人、病人を負ぶうことはいまでもごく一般的に行われている。かつては花嫁も背負って運ぶ所が多かった。また、神仏も運ぶときは背負うようにしていたものである。物資を背負う方法はおよそ三つに分類される。第一は頭部と背部を使用する頭部支持背負い運搬、第二は胸部と背部を使用する胸部支持背負い運搬、第三は両肩と背部を使用する両肩支持背負い運搬である。第一は世界各地に広く分布し、日本においても以前は本土でも行われていたが、いまは伊豆諸島、奄美(あまみ)諸島、沖縄諸島など周辺島嶼(とうしょ)部でみられるのみである。用具は籠(かご)が使われることが多い。第二は、たとえば風呂敷(ふろしき)包みを胸に結わえ付けて負うというたぐいのもので、いまでも行われている。しかし、支えられる重量は他の二者に比べれば少ない。なお、伊豆諸島では、頭部支持背負い運搬用具をこの方法で使用することもある。第三はもっともポピュラーなもので、リュックサックなど日常的にみかけられるが、用具として重宝なのは背負い梯子(ばしご)である。背負い運搬は男女ともに行うが、第一の方法はほとんど女性に限られている。この運搬法の特徴は、とくに第三において、かなりの重量を負いながら、両手が自由に使えることである。中世以前は長距離の物資運搬もほとんど人力によっていたが、その際もっぱらこの方法がとられたゆえんである。この背負い運搬業者を担夫(たんぷ)、歩荷(ぼっか)などとよび、中部山岳地帯ではつい近年まで活動していた。背負うことを古語で「かるう」というが、背負い運搬業者が多くいた所にはこれが地名として残され、もっとも有名なのが信州の軽井沢である。

[胡桃沢勘司]

腰提げ運搬

腰に提げて運ぶ方法である。もっぱら物資が対象とされるが、比較的軽量なものに限られる。用具は籠や袋が用いられ、下げ緒(お)や紐(ひも)で腰に結び付ける。かつては全国各地で盛んに行われ、農村では播種(はしゅ)をする種子を、山村では採取した果実、山菜を、漁村ではとらえた小魚を、それぞれ運ぶ際便利な方法とされていた。たとえば浦島太郎の姿などは一つの典型で、近年までとくに釣り人には簡便な運搬法とされたものである。しかし、いまではそれもほとんどみかけられなくなってしまった。

[胡桃沢勘司]

手持ち運搬

手に持って運ぶ方法である。これは運搬法としてはもっとも原初的な形態で、人間が両手を自由に使えるようになると同時に開始された。それゆえに、とくに用具を使わず運ぶケースが、他の方法に比べれば多い。物資を主とするが、人間も対象とされることがある。手に抱える場合と提げる場合とがあり、たとえば子供を抱いて行くのは前者の、鞄(かばん)を提げて行くのは後者の例である。2人以上で行うことがわりあい多いのが一つの特徴である。重い物を数人で抱えたり、病人を担架にのせて2人で運んで行く、という光景は日常よくみかけるところだろう。手抱え運搬は持ちにくいため、運べる距離は短い。これに対し、手提げ運搬は比較的長い距離を運ぶことができる。運搬用具も、前者はありあわせのものを用いることが多いが、後者は袋、バッグ、鞄など専用のものが用いられている。この方法は、1人で行うときは軽い物しか運べないが、今日依然として広く行われており、もっとも簡便な運搬法といえるだろう。

[胡桃沢勘司]

畜力・自然力運搬

最後に、人力以外によるケースについて若干触れておく。元来「運送」といっていたところへ「運搬」が混用されるようになったわけだが、畜力、自然力を利用するものである。近年は小型の動力車両によるときをも含めるようになっている。いずれにせよ規模は小さい。これに対し、規模の大きなものは「輸送」とよばれている。

 畜力とは、日本では馬もしくは牛によるものである。タイ、インドなどでは象が、シルク・ロードなど乾燥地帯ではラクダが、ヨーロッパでは馬とあわせてロバ、ラバがそれぞれ用いられている。この場合、背に積むか車を引かせるかの二つの方法があるが、日本ではもっぱら前者が行われ、後者は明治以降みられるようになったものである。背に積むときでも、人間の2~3倍の重量に耐えられる牛馬は、効率のよい手段であった。とくに農家では、農耕用としても兼用できる便利なものである。しかし、いまでは耕うん機や小型トラクターなどにとってかわられ、ほとんど姿を消している。なお、かつては牛馬を数頭一度に追うことにより、多量に運ぶことが行われていた。南部の牛追い、信州の中馬(ちゅうま)追いなどが代表的な例である。ただし、このような大規模なものにはむしろ「輸送」の語があてられる。

 自然力を利用するものとは、風力による帆掛け船、雪の上を滑らせる橇(そり)などである。前者はその姿をみることは珍しくなっているが、後者は雪国における運搬手段として、いまも日常生活と密接に結び付いているものである。

[胡桃沢勘司]

『「棒の歴史」(『定本柳田国男集21』所収・1962・筑摩書房)』『宮本馨太郎著『民具入門』(1969・慶友社)』『北見俊夫著『市と行商の民俗』(1970・岩崎美術社)』『礒貝勇著『日本の民具』(1971・岩崎美術社)』『大矢誠一著『運ぶ――物流日本史』(1978・柏書房)』『木下忠編『背負う・担ぐ・かべる』(『双書フォークロアの視点』7・1989・岩崎美術社)』


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世界大百科事典 第2版 「運搬」の意味・わかりやすい解説

うんぱん【運搬】

運搬とは人間や物をある地点から他の地点へ運ぶことであり,交通や輸送もその中に含まれる。情報もまた運ばれるものであり,運搬の一種にもなるが,ふつうこれは通信といわれる。
【起源】
 運搬の起源は人類の起源と同時である。人類の基本的特性の最たるものは文化をもつことであり,その文化的能力はまず道具の製作と使用に発揮された。そして素材や道具,食料は運ばれねばならなかった。猿人段階の道具は,礫(れき)を打ちかいて鋭くした万能石器や木の棒などであったから,運搬はもっぱら手に持つ形で行われたであろう。

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岩石学辞典 「運搬」の解説

運搬

物質が水,空気,氷などで移動すること.回転,滑り,跳躍などによる移動,溶液内のコロイド懸濁物として,純粋な溶液としての移動などが有効である[Playfair : 1802, Pettijohn : 1975].風化崩壊した物質,または浸食された物質を流水,氷河,風などの作用で原地から沈積場所に運ぶこと.大部分は機械的に行われるが,化学的な溶解が行われることもあり,特に流水の場合には化学的運搬は重要な作用である[渡辺編 : 1935].

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世界大百科事典内の運搬の言及

【荷役運搬機械】より

…生産や物流の施設における,原材料や部品や製品など,あらゆる有形の物の移動(上げ下げおよび横移動),保管およびこれらに付随する取扱いを荷役運搬といい,これに用いられる機械を荷役運搬機械と総称する。船,貨車,トラックなどと埠頭(ふとう),倉庫,資材置場などとの間の荷の積卸しを荷役,生産や物流の施設の構内やこれに準ずる特定範囲内の荷の移動を運搬と呼び分けることもあるが,近代産業の様態においては,これらは別個の独立した行為としてではなく,一連の物の移動として考えたほうがよく,さらには保管の分野をも含めた総合的な荷役運搬という概念に基づいて物の取扱いを計画することが,生産・物流の合理化のうえで必要になってきた。…

※「運搬」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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