改訂新版 世界大百科事典 「女の平和」の意味・わかりやすい解説
女の平和 (おんなのへいわ)
Lysistratē
前411年に上演されたアリストファネス作の喜劇。このころシチリア遠征に失敗したアテナイは,ペロポネソス戦争における主導権をすでに失っており,同年には,内政的にも,400人政権による民主政の破壊,さらにその400人政権の崩壊と激動が続き,アテナイ市民にとっては耐えがたい苦難の年であった。そのような状況を背景にして,戦争に嫌気がさして男どもに愛想をつかしたアテナイとスパルタの女たちが,男どもを拒んで政治の中心アクロポリスを占拠し,性的にも生活的にも政治的にも途方にくれた敵味方の男どもに,ついに平和条約を結ばせるという筋立て。ヒロインのアテナイ婦人リュシストラテの名は〈軍隊を解く女〉の意。女たちのセックス・ストライキという着想のゆえに,彼の作品中最も知名度の高いものとなってはいるが,最もアリストファネス的な作品とは言えない。純粋に形式的に見ても,詩的想像力の点でも,彼の喜劇の世界が明確な変質を見せた最初の作品とみるべきであろう。
執筆者:安西 真
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報