改訂新版 世界大百科事典 「如来蔵説」の意味・わかりやすい解説
如来蔵説 (にょらいぞうせつ)
2~3世紀ころ成立した中期大乗思想の一つ。大乗仏教の思想,教理を組織体系化した論師(ろんじ)たちには,大きく二つの流れがあった。竜樹を祖とする〈中観(ちゆうがん)派〉と弥勒(みろく)を祖とする〈唯識(ゆいしき)派〉とである。後者と深いかかわりをもち,おもに彼らによって継承された思想に,如来蔵説がある。学派としての形成はついになされることはなかったが,その思想は,密教の成立に大いに寄与し,また中国,日本の仏教に深い影響を与えた。なお,この説はものの考え方において,ベーダーンタ学派に近いものがあるとみる学者もいる。
〈如来蔵説〉とは,すべての人々に,如来すなわち仏となりうる可能性があるという主張で,人々が本来もっている〈自性清浄心(じしようしようじようしん)〉に悟りの可能性を見いだして,これを〈如来蔵〉あるいは〈仏性(ぶつしよう)〉と呼ぶ。〈如来蔵〉の原語は,サンスクリットでタターガタ・ガルバtathāgata-garbhaであり,〈如来の胎児〉を原意とする。すべての人々は,如来を胎児として蔵しているという意味である。
この思想は,《如来蔵経》に始まり,《不増不減経(ふぞうふげんきよう)》や《勝鬘経(しようまんぎよう)》によって継承され,《宝性論(ほうしようろん)》にいたって組織体系化された。また,《涅槃経(ねはんぎよう)》(大乗)では,とくに〈仏性〉という語が用いられ,この思想が展開されている。なお〈仏性〉は〈如来蔵〉と同義語であるが,中国,日本においては,その語の大衆性により,もっぱら〈仏性〉の語が用いられた。
執筆者:阿部 慈園
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報