日本大百科全書(ニッポニカ) 「孤独な散歩者の夢想」の意味・わかりやすい解説
孤独な散歩者の夢想
こどくなさんぽしゃのむそう
Rêveries du promeneur solitaire
フランスの思想家・文学者ルソーの最後の作品。1776~78年執筆。1782年刊。ルソーは強度の迫害妄想に取り憑(つ)かれて、『告白』と『対話』では公衆に対して執拗(しつよう)な自己弁護を試みたが、やがてそうした企てをすべて断念し、ひたすら彼自身のために過去の甘美な思い出と現在の心象や瞑想(めいそう)を書くことに専念した。第一の散歩は現在の心境と決意。第二は、散歩の途中の偶然の事故で失神したあと、意識を回復するまでの間に経験した神秘的な陶酔感。第三は40歳のときの道徳的改心と死に臨む心構え。第四は嘘(うそ)に対する考察。第五はサン・ピエール島(スイス西部ビール湖中の島)での楽しい日々の回想。第六は善行に対する反省。第七は植物採集の楽しさ。第八は「迫害」にもかかわらず、彼が孤独のうちにみいだした魂の平和。第九は子供たちに対する彼の親愛の情。第十の散歩は未完で、50年前のバラン夫人との出会いとそれに続く数年の幸福な時代の追憶が、それぞれ語られている。
[坂井昭宏]
『『孤独な散歩者の夢想』(青柳瑞穂訳・新潮文庫/長谷川克彦訳・角川文庫/今野一雄訳・岩波文庫)』▽『佐々木康之訳『ルソー全集 第2巻』(1981・白水社)』