日本大百科全書(ニッポニカ) 「完顔部」の意味・わかりやすい解説
完顔部
わんやんぶ
中国、金代女真(じょしん)の一部。渤海(ぼっかい)国の滅亡後、渤海の貴族、高官、有力な部族は遼陽(りょうよう)地方に移されたが、その他の女真族はそれぞれの地方に居住し、遼の支配を受け、生女直、生女真とよばれた。完顔部は生女真のなかの一部で、いまの黒竜江省を流れる阿什河(アシホ)(遼代には按出虎水(アルチュフすい)とよばれた)流域が生活圏で、その中心は阿城県付近であったから按出虎水完顔部ともよばれる。『金史』「世紀」には完顔部の首長の世系と事跡が記されるが、始祖以後の人物の存在は怪しく、第6代景祖(けいそ)のころから完顔部の勢力が拡大し始めたのであろう。1113年、烏雅束(うがそく)が亡くなると弟の阿骨打(アクダ)が完顔部の首長となり、15年皇帝位につき大金国の誕生となった。完顔は漢族の姓である王(ワン)の転訛(てんか)であるという説がある。完顔部には按出虎水完顔部のほかに泰神忒保水(たいしんとほすい)完顔部、神隠水(しんいんすい)完顔部などがあるが、相互の血縁関係は不明である。
[河内良弘]
『「金史世紀の研究」(池内宏著『満鮮史研究』中世第1冊・所収・1943・荻原星文館)』