改訂新版 世界大百科事典 「小屋住農」の意味・わかりやすい解説
小屋住農 (こやずみのう)
cottar
Kötner[ドイツ]
bordier[フランス]
ヨーロッパの中世農村または荘園における零細農で,自分の家とそれに付属する小土地を持つ。英語でcotter,cottager,ドイツ語でGärtnerともいう。中世史家E.A.コスミンスキーが13,14世紀のイギリスについて明らかにしたように,封建制の最盛期においても,荘園制は国のすみずみまで一様に成立しなかったし,直接生産者たる封建農民の土地保有状況もけっして一様ではなかった。イギリスに限らずヨーロッパのどの国でも,その点はほぼ同様である。ノルマン人のイギリス征服(ノルマン・コンクエスト)後につくられた土地調査簿《ドゥームズデー・ブック》(1085-86)を見ると,封建農民の中核をなす〈ビレン〉の下に,同じく〈不自由農〉として,より身分の低い〈小屋住農(cottariiあるいはcottagiarii,bordarii)〉が記載されている。bordariiはフランス語が語源で,ノルマン人とともにイギリスに広まった表現であるが,実質的にcottariiと区別はない。またその表現自体がイギリスではいちはやく姿を消し,cottarとかcottagerという表現だけになる。
小農あるいは零細農という意味では,13世紀の小屋住農も19世紀の小屋住農も大差はない。いずれも自立的な農民たりうるほどには土地を持たず,多かれ少なかれ他人に雇われて働くことが必要である。封建社会の小屋住農の多くが領主あるいは一部の裕福なフーフェ農民のもとで,臨時雇あるいは年季奉公人として雇用されたのに対し,近代社会の小屋住農は資本家的農業経営者や地主のもとで働く事実上の労働者となる。なぜなら,フーフェ農民(本百姓)と区別されたにしても,ゲルトナーGärtnerとかボルディエbordierという言葉にも示されるように,小屋住農にはもともと菜園Gartenその他若干の土地borderieが付随していたし,共同放牧権その他の共同体的権利も付随しており,それだけでもある程度まで生活は保障されていたが,近代社会ではそうした条件が失われるからである。
執筆者:椎名 重明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報