改訂新版 世界大百科事典 「岩倉保養所」の意味・わかりやすい解説
岩倉保養所 (いわくらほようしょ)
京都洛北の岩倉にあった精神障害者の治療・看護施設。この地の大雲寺の境内にある閼伽井(あかのい)と呼ばれる不増不減の霊泉が,眼疾および精神障害に卓効ありとする伝説があった。とくに1072年(延久4),後三条天皇の第3皇女佳子内親王が〈もののけ〉につかれたとき,天皇が神仏に祈願されたところ神のお告げで,この閼伽井の水を毎日飲ませたところ,たちまち平癒したという。それを伝え聞いた人たちが,精神障害の患者を大雲寺に参籠させ,本尊への祈願と霊泉の飲用をさせることが行われるようになった。そして参籠者の民宿が開かれ,また茶屋と称する旅籠(はたご)が営まれるに至った。江戸の文政年間(1818-30)に四軒茶屋ができたが,明治になって,医療的配慮が求められ,茶屋は〈保養所〉と名称をかえ,1884年に保養所を監督し,障害者の治療を受け持つ岩倉癲狂(てんきよう)院(のちに岩倉病院)を中心とする家族看護制度がととのった。保養所は最盛期には8軒になり,200人以上が収容された。1944年岩倉病院が海軍病院となるにおよび,保養所も閉鎖された。しかし,類似の家族看護制度がベルギーのゲールGeel(Ghel)にあり,同地は精神障害者の社会復帰の一形態として定着し発展している。岩倉保養所での開放的な障害者の処遇は,新たな観点から見直されつつある。
執筆者:加藤 伸勝
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