改訂新版 世界大百科事典 「幕友」の意味・わかりやすい解説
幕友 (ばくゆう)
mù yǒu
中国,とくに明・清時代における官僚の私設秘書のこと。幕客,師爺(しや)ともいう。専制王朝体制のもとで科挙制度とむすびついた中国の官僚制度は高度に整備されたが,近代のそれとはかなり異質なものだった。科挙は作詩作文能力や経書に対する知識を試すものであっても,現実の実務知識とは無関係な試験だった。実務は〈読書万巻,律を読まず〉式の官のもとで,胥吏(しより)とよばれる専業者によって担われたのである。しかも,一県に正式の官員は数名ということからも分かるように,仕事量と定員の関係はきわめて不釣合だった。ゆえにブレーンないし補助者としての幕友の存在が不可欠となるのである。地方官ならふつう財政経済担当の銭穀師爺と法律裁判担当の刑名師爺が必須とされるが,私設秘書なのだから身分と財力に応じて招かれた。幕友は,科挙をあきらめた知識人の一つの処世の道だったが,曾国藩幕下の李鴻章のように将来へのステップの場合もあった。その重要性から,幕友のための心得を説く幕学の発生をみた。
執筆者:狭間 直樹
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報