店卸(読み)たなおろし

改訂新版 世界大百科事典 「店卸」の意味・わかりやすい解説

店(棚)卸 (たなおろし)

商人が決算の際,商品の在高(ありだか)を実地に,あるいは帳簿上で検分すること,もしくはこれを評価することをいう。西鶴《世間胸算用》に〈帳綴,棚おろし,納め銀の蔵びらき〉,同《万の文反古》には〈財宝の外金子ばかり九千両,この正月の棚おろしに見え申候,金なくて金はまうけられぬ浮世に候〉とある。近江日野の矢野久左衛門家の1883年〈店勘定雛形〉には〈店卸ハ毎年月三十日ヨリ翌年月三十日ヲ以テ一期トシ,更ニ店卸帳ヲ製シ,一期差引ヲ為シ損益ヲ計リ,其帳ニ明確ニ記載シ〉とある。江戸時代の商家では,店卸資産は〈有物之覚(ありもののおぼえ)〉〈代呂物勘定帳〉〈諸色有物棚卸勘定帳〉などの帳面や総決算簿たる〈算用帳〉〈大福帳〉などの資産勘定で記帳された。大坂の両替商鴻池善右衛門家の〈算用帳〉では〈貸有銀〉の項目に,貸付金残額,現金銀在高とともに,在庫品勘定,売掛金勘定が記載されていた。また近江日野の中井源左衛門家では,売立帳,問屋仕限帳,給金帳,金銀出入帳,店卸書抜帳などから店卸下書が作成され,それをもとに,期末に決算報告書〈店卸目録〉が作成された。この〈店卸目録〉では財産計算と損益計算の二重計算がなされており,複式構造をもつ帳合法が成立していた。なお,店卸資産の評価は取得原価で行われているもの,時価で行われているものなどさまざまであった。また江戸時代には店卸の語は,在庫品の値下げ販売の意味にも使われた。
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会計学では棚卸inventoryの字をあて,資産の実際在高を調べ数量・品質・価額などを確認することをいう。今日では棚卸資産原材料・半製品・仕掛品部品などの作業資産,商品・製品などの販売資産,消耗品などの営業用資産を総称した語)のみならず,すべての資産および負債について棚卸が行われる。棚卸は,実際に現物を調査して行う実地棚卸と,帳簿上で行う帳簿棚卸とに分けられる。また実施時期により,期中棚卸と期末棚卸とに分けられる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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