改訂新版 世界大百科事典 「復性説」の意味・わかりやすい解説
復性説 (ふくせいせつ)
Fù xìng shuō
中国思想において,自己の本性に復帰することを主張する学説。人間とその歴史は時間の進行とともに堕落するとし,前進より復帰をよしとするのは中国思想に通有の傾向である。儒教には根強い尚古思想があり《易》にも〈復〉の卦(か)があるし,《老子》はしばしば根源(道)への復帰を説き(第16章の〈復命〉など),また《荘子》にも〈復初〉の思想がある(繕性篇など)。復性説はそれを人間性のレベルで説いたもので,心が情として動く以前の静かな状態(性)に復帰することによって心の安定と人格の完成をめざそうとする。その萌芽はすでに《礼記(らいき)》楽記篇に〈人生まれて静かなるは天の性なり,物に感じて動くは性の欲なり〉と表明されているが,これを理論的に整備したのは唐の李翺(りこう)の《復性書》であり,彼の説は宋代の新儒教(道学)に継承される。
執筆者:三浦 国雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報