性同一性障害の治療方法の一つで,現在の性とは反対の性(男性なら女性,女性なら男性)に転換する手術のこと。1995年に埼玉医科大学の原科孝雄教授(形成外科)が同大倫理委員会に申請を行い,1996年に日本の大学として初めて,条件つきで医療方法として承認された。その後,精神科・泌尿器科などの協力や,日本精神神経学会によるガイドライン作成といった条件をクリアしたため,1998年5月手術実施が許可され,10月〈医療〉として国内初の性転換手術が女性患者に施された。翌1999年には男性から女性への国内初の性転換手術が施された。 過去の性転換手術としては,東京都内の産婦人科医が,男性3人に精巣摘出を行ったことがある。これは,1969年に優生保護法(1996年の改正にともない母体保護法に改称)28条〈故なく生殖を不能にしてはならない〉に違反したとして,東京地裁で有罪判決を受け,1970年に東京高裁で有罪が確定した。このため,医学界では性転換手術はタブー視され,手術を望む人たちが米国や東南アジアで手術を受けるケースも出てきた。 海外では,オランダが性転換手術に健康保険を適用しており,英国,フランス,米国の一部の州でも手術を合法化している。米国では1977年にハリー・ベンジャミン国際性別不快協会(Harry Benjamin International Gender Dysphoria Association)が基準を設定,手術成績がよくなったといわれている(手術が失敗する割合は約10〜15%)。 日本では,手術は成功しても戸籍法で性別の変更を認めていない。日本精神神経学会では〈法曹界でこうした問題の討議を行い,適切な結論を出すことを要望する〉としている。外国ではスウェーデン,ドイツ,イタリア,オランダ,トルコで性転換法が制定され,自分の望む性別で生活する法的権利が認められている。→性転換