ある問題について意見を闘わせることをいう。現代社会においてはさまざまな局面で討議が必要とされ、問題解決のための方策となっている。よく似たことばに「審議」「会議」「議論」「討論」などがあり、それぞれ若干ニュアンスを異にしている。いずれにしても今日民主的な意思決定を行うために討議することは一つの重要なプロセスである。討議による意思決定の場として、国会、地方議会、閣議、行政委員会、裁判官会議、審議会などがあげられ、これらの機関は議員ないし委員の会議によって一定の決定がなされる場である。
[川野秀之]
討議の方法はおよそ次のような5種類に分類することができる。(1)自由集団討議(インフォーマル・グループ・ディスカッション) 形式にとらわれず集団の全員が討議に参加する。集団の構成員が多いため全員の発言が思うようにできない場合や、問題が分化したような場合には、全員討議のほかに、いくつかの小グループをつくり、全員討議と小グループ討議とを組み合わせることによって議論を深めたり、全員が発言することによって問題点を全員に十分理解させるようにする。議会の本会議と委員会の関係、審議会の全体会議と部会の関係などがこれに相当する。(2)パネル・ディスカッション 直接討議に参加するのは、討議すべき問題について深い知識をもったり研究を積んだ5、6名の人々で、他は聴衆となり、パネル・メンバーの自由な討議の過程において、司会者の求めにより質問の形で間接に討議に参加する。学会の研究会などがこの形式をとりやすい。(3)討論会 特定の提案または主題について賛否両方の立場の代表がたって賛否の意見を述べ討論する。この場合、代表は個人のこともあり、数名からなるチームの場合もある。他は聴衆として両者の意見を聞き、ときには質問の形で討論に参加することもありうる。二国間の外交交渉は、オブザーバーを介在させない討論会形式で行われることが多い。一般に日本人はこの形式で賛否を明確にすることにたけていないといわれる。それは一面では日本的意思決定の長所であり、「和」の論理であるといえよう。しかし、同時に、国際社会のなかで日本の立場を主張するためには、是は是とし非は非と明確に議論すべきである。ゲームとしての討論を教育体系のなかに組み入れ、議論は議論、人間関係とは別個のものであり、割り切って考えることを学ぶほうが望ましい。
そこで討論会の一形式として最近プロコン・メソッドが登場している。これは、賛成側(pro)、反対側(con)両陣営に参加者を配分し、さらに議長・書記・計時係、そして複数の審査員を置いて、細かく採点してどちらの勝利かを決定する疑似意思決定の訓練法である。この方式の長所は、争点が明確になることと、予想される反応への対応がしやすくなることであり、行政レベルの意思決定への応用が検討されている。(4)シンポジウム、フォーラム 討論会のうち、討論の立場が単に賛否二者だけでなく、三つ以上の違った立場の代表によって討論が行われる場合である。シンポジウム形式と(2)のパネル・ディスカッション形式を区別することは、実際にはむずかしいが、パネル形式のほうは、討論者の立場はかならずしも異なっていなくてもよく、同じ立場で意見を補足することもありうる。シンポジウム形式の問題点は、確かにさまざまな意見の違いを明確化できるが、司会の方法しだいでは問題解決の方向に論旨が進まないこともありうることである。(5)委員会討議 集団から選ばれた数名の委員が集まり、集団の構成員から委任された権限の範囲内で、集団全体に関係する問題を研究したり、全体への提案を作成したりするために行う討議である。さまざまな対立する利益の代表者が集まることが多い。
[川野秀之]
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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