発育の途中で個体の性が雄から雌に、雌から雄にそれぞれ逆転する現象をいう。雌雄同体と異体との境界にあるような下等な動物では珍しくないが、ヒトではきわめてまれな現象である。性染色体の構成異常、たとえば性染色体構成はXXY型で、染色体数は正常より1個多い47個であり、性腺(せいせん)は精巣(睾丸(こうがん))で男性でありながら多くの点で女性的徴候を示すクラインフェルター症候群Klinefelter syndromeのほか、性染色体構成はXYの正常男性型で性腺も精巣でありながら、外性器は完全な女性型で思春期になると乳房も発育する精巣性女性化症候群(男性半陰陽の一型)、性染色体構成がXXの女性型で性腺は卵巣で子宮なども存在するが、副腎(ふくじん)の腫瘍(しゅよう)やホルモン合成酵素の欠損などがあるため、男性ホルモンが過剰に分泌され外陰部が男性化してしまう副腎性器症候群(女性半陰陽の一型)などがある。
このような性染色体や性腺、内性器や外性器にまったく異常がないにもかかわらず、自分は本当は別の性に属していると信じている人たちがおり、また別の性になりたいと願っている人たちがいる。こうした性的傾向をトランスセクシュアリズムtranssexualismとかトランスセックスとよび、医学上は性同一性障害と診断される。このような人たちは同性愛と混同されがちであるが、同性愛ではない。トランスセックスの男性は、自分は本当は女性であると思っているので、異性愛の男性から女性として愛されたいと願っている。トランスセックスの真の原因はまだわかっていないが、胎児期におけるある種のホルモンの影響や幼児期に受けた両親からの影響などがあげられている。
性転換手術(性別再指定手術)は、ヨーロッパやアメリカなどでは広く行われているが、日本では先天的に異常のある半陰陽などに限られていた。1969年(昭和44)に性転換手術を行った医師が優生保護法違反で有罪判決を受けて以来、いわゆるトランスセックスの人に性転換手術を行うことは公には認められていなかったが、1996年(平成8)に埼玉医科大学倫理委員会から初めて性転換手術を正当な医療行為と認める答申が出され、1998年に国内初の性転換手術が行われた。
[白井將文]
動物の性は一義的には受精の際に遺伝的に決定されるが、その性決定はかならずしも最終的なものではなく、自然的に、また実験的に変わりうる。自然的におこる例としてフリーマーチンがある。すなわちウシの二卵性双生児が遺伝的に雄と雌である場合、雄は正常であるが雌はいろいろな程度に雄化する(2頭とも同じ性ならばいずれも正常に育つ)。また別の例として寄生去勢とよばれるものがある。たとえばカニの雄にフクロムシが寄生すると二次性徴のみならず内部生殖器も雌化し、ときには卵子を生ずる。実験的に性転換をおこさせる方法としては性ホルモンの投与がある。メダカを孵化(ふか)直後から雌性ホルモンで飼うと遺伝的雄が完全な雌になり、雄性ホルモンで飼うと遺伝的雌が完全に雄化する。転換したメダカは機能的で子孫をつくることができる。ある種のカエルの幼生を雌性ホルモンで飼育して遺伝的雄を雌にすることもできる。また遺伝的雌幼生の腹腔(ふくこう)内に精巣を移植すると完全な雄化がおこり精子を形成する。このほか、ニワトリで左卵巣を除去すると右卵巣が精巣に発達することがみられている。飼育温度によっても性転換がおこる。ある種のカエルの幼生を20℃の水温で飼うと雌雄同数となるが、32℃の高温で飼うと雄が多く、10~15℃の低温で飼うと雌が多くなる。
[内堀雅行]
『中園明信・桑村哲生編『魚類の性転換』(1987・東海大学出版会)』▽『虎井まさ衛・宇佐美恵子著『ある性転換者の記録』(1997・青弓社)』▽『B・カンプラート、W・シッフェルス編著、近藤聡子訳『偽りの肉体――性転換のすべて』(1998・信山社出版)』▽『性の問題研究会著『図解性転換マニュアル』(2000・同文書院)』▽『D・N・マクロスキー著、野中邦子訳『性転換』(文春文庫)』
遺伝的に決定された雌雄の性が反対の性に転換すること,またはさせること。いずれかの性で生活していたものが途中で反対の性に転換する例は,魚類をはじめ動物でしばしば観察される。こうした生物の性転換については〈性〉の項を参照されたい。ここではヒトの性転換について述べる。
男女の性には,性染色体,性腺,性器などによって決まる生物学的あるいは肉体的な性別と,戸籍上あるいは法律上の性別と,社会的あるいは精神的な性別の三つがある。正常ではこの三つの性が一致しているが,そうでない場合には,裁判や手術などで男性を女性に,あるいは女性を男性にしなければならないことがある。これを性転換と呼び,その手術を性転換手術という。本手術は肉体的な性の異常である半陰陽と,精神的な性の異常である性転換願望者(トランスセクシュアルtranssexual)が対象として考えられる。半陰陽には真性半陰陽と仮性半陰陽があるが,前者では睾丸あるいは卵巣を摘出し外陰部を形成する手術を行う。後者では,出生時に外陰部の性別がはっきりせず,反対の性に入籍されることがある。この場合は,のちに異常に気づき,外陰部の形成手術を行い,裁判によって正しい戸籍上の性に変える。あるいは場合によっては戸籍上の性を変えないで,睾丸あるいは卵巣を摘出し,そのままの性で育てることもある。このような性転換は医学上にも法律上にもあまり問題はない。次の性転換願望者は,肉体的にも戸籍上にも完全な男性あるいは女性であるが,精神的,心理的に反対の性をもっている者である。たとえば肉体は完全な男性で戸籍上も男性でありながら,心は女性で自らを女性とみなし,肉体的にも強く女性になりたいと望んでいる者である。このような精神の倒錯(性倒錯)が起こる原因は現在のところ不明であるが,これを精神科的な治療法によって矯正できないならば,本人の精神的な苦痛を取り除くためには,肉体的な性を転換してやらざるをえないのではないかというのが性転換手術のもつ意義である。欧米では,精神科医,心理学者,内科医,婦人科医,泌尿器科医などがチームを作り,各症例ごとに慎重に検討して手術を行っているところもある。しかし本手術が法律上認められない国も多く,日本でも法律上は問題があり,あまり行われていない。
手術の方法は,男性を女性にする場合は,睾丸を摘出し陰茎を切断したあと,残った陰囊の皮膚や腸管を用いて腟を作製する(人工造腟術)。その後は女性ホルモンの投与を続ける。反対に女性を男性にするには,卵巣や子宮を摘出し,乳房の切断と男性ホルモンの投与を行う。人工の陰茎を作る方法もあるが,単なる外観を満足させるだけでなく,尿道をそなえ性交まで可能な陰茎を作ることは容易ではない。
執筆者:上野 精
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(垂水雄二 科学ジャーナリスト / 2007年)
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…また,マイマイガは日本産のものとヨーロッパ産のものを交配すると間性を生じる。これをゴルトシュミットR.B.Goldschmidtは,雌性決定因子が卵の細胞質中に,雄性決定因子がZ染色体上に(雄の性染色体はZZで雌はZWである)存在すると仮定し,これらの因子の強さが品種間でまたは発生時期で異なり,発生途中で性転換がおこり間性が生ずると説明した(量的学説)。一般に後から発生する器官ほど性転換の影響をうける度合が大きく,転換から後の発生期間の長い個体ほど強い間性になるが,これを間性の時の法則という。…
…以上のように,生物の雌雄は遺伝的な決定のうえに,各種のタンパク質,性ホルモンが,生殖の分化,付属器官の発達,脳や行動の分化を起こし機能的な雌雄が形成されるわけである。 前述の,メダカへのホルモン投与やダンゴムシでの造雄腺の移植によって,遺伝的な性が途中で逆転する現象を〈性転換〉という。また,ニワトリの左卵巣を除去すると,右卵巣は精巣に分化する。…
…しかし,そのように幼少期から定められ認められた性役割転換者以外の男の〈自発的な同性愛〉行為は,軽蔑という制裁を受ける。このような制度的な性転換者は超自然的な力をもつとみなされる場合も多い。シベリアのチュクチ族の女装するシャーマンはそのような典型であり,彼もほかに女性の妻をもつ通常の男の〈妻〉となる。…
※「性転換」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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